[ オピニオン ]
(2018/7/5 05:00)
冷蔵庫から取り出した350ミリリットルの缶ビール。妙に軽いと感じて料理秤に乗せると、191グラムだった。穴を疑い上下左右に振ってみるも漏れはない。キツネにつままれた気分だ。
よく見ると缶胴に縦線状の擦り傷がある。液量検査ではじかれるべき充填不足の缶が分岐にでも当たり、レーンに戻ってしまったのだろうか。推論するも答えが見つかるはずもなく、メーカーの「お客様相談室」に缶を送ってみた。
待つこと約1週間。5枚におよぶ用紙には丁寧な詫(わ)びとともに、顕微鏡拡大画像や文章で詳細な分析報告が印されていた。“犯人”は擦り傷の一部にある長さ0・4ミリメートルの貫通。炭酸ガスと液が漏れ出た後、エキス分が貫通部で固まり再密閉された可能性が高いとか。
シロウト探偵の推理の及ぶところではなく、科学分析捜査に完敗だ。工場の製造ラインは缶の接触面が全て平滑である点や全数液量検査していることから、出荷後にどこかで受傷したと見られる。
年とともに落ちる視力や体力。つぶさに観察したはずが貫通を発見できなかったことが口惜しい。分量ほぼハーフのビールは「酒量を減らせ」との神のお告げだろうか、と考えもしたが夏のビールの魅力にあらがえず、また缶を手に取る。
(2018/7/5 05:00)