[ 金融・商況 ]
(2018/7/22 07:00)
仮想通貨は普及期から浸透期へ
フィンテックの中で最も革新的とされる仮想通貨は普及期から浸透期へと第2段階に入った。
仮想通貨を法律で規定した改正資金決済法の施行から1年余り。この間の話題は仮想通貨取引の急拡大・価格高騰と、1月に起きたコインチェックによる多額の不正流出事件だ。
これを機に金融庁はこれまでの“業界寄り”の姿勢から一転して、6月23日、仮想通貨交換業の大手6社に対し業務改善命令という強い行政指導を行った。
実質的に「賭博にお墨付きを与えたのではないか?」という批判を振り払う形の業務改善命令だが、これで仮想通貨に対する疑問や問題が払拭(ふっしょく)されたわけではない。
日本は仮想通貨取引所を登録制にすることで世界に先駆けて仮想通貨を法的に位置付けた。だが、これにより仮想通貨取引が急騰し、価格拡大を呼び、混乱を招いた。
識者に聞く
仮想通貨にまつわる基本的な疑問について、岩下直行氏(京都大学公共政策大学院教授、元日銀初代フィンテックセンター長)と、神田潤一氏(マネーフォワードフィナンシャル社長、元金融庁信用制度参事室企画官)の二人の識者に聞いた。
伊勢志摩サミットからの課題
-2017年4月に改正資金決済法が施行され、世界に先駆け仮想通貨交換業者を登録制にしました。その動機は何だったのでしょうか。仮想通貨が普及し始め、投機が盛んになり市場の混乱が予想されたためでしょうか。
神田氏:もともとは16年の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)で仮想通貨によるマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金使用対策などがテーマになりそうだということがきっかけだ。日本では14年にマウントゴックス事件もあったのできちんとしたスタンスを示そうとした。
岩下氏:ビットコインはそれまで一部の“コンピューター・オタク”に知られた存在だったが、投資対象として認識されたきっかけは13年のキプロス危機だ。既存の銀行が営業を停止する中で、資金を海外の主にロシアに移動させる手段として注目された。現在は既に仮想通貨取引が広がっており、金融庁としては無視できない。
-この2年余り仮想通貨を取材していて、「ビットコインはすごい」という声が満ちあふれています。「何がすごいのか」というと、結局、「値上がりするからすごい」という。ビットコインで商品を買って便利だったなどの投機以外に活用した声は聞こえてきません。「もうかる」という声の中で仮想通貨には分からないことが多い。ビットコインの分裂騒ぎもその一つです。
神田氏:ハードフォーク問題でビットコインの価格はさらに急騰した。分裂すると新しいコインがもらえ、資産が2倍、3倍に膨らむ可能性があるということで仮想通貨のブームのきっかけとなった。もう一つはICO(仮想通貨発行による資金調達)だ。
ICOは壮大なババ抜きゲーム
岩下氏:ICOが急拡大した昨年4月から5月にかけて、急にイーサリアムの価格が数十倍に急騰した。イーサリアムによってICOトークンを買うためだ。だが、ICOトークン自体は無価値なもので、ICOは壮大なババ抜きゲームだ。最後の持ち手は結局無価値なものを持つことになる。
-日本の仮想通貨取引は昨年、約69兆円と1年間に20倍に急増し、顧客数は延べ360万人と言われています。コインチェック事件を契機に金融庁は立ち入り検査の後、登録交換業者大手6社に業務改善命令を出しました。業界トップと言われているビットフライヤーはこれを受けて新規顧客口座の開設を停止しましたが、仮想通貨は今後どうなりますか。
岩下氏:ある仮想通貨取引事業者は「我々はベンチャーだから十分な対策はとれない」と言うが、それでは困る。投機以外に仮想通貨は各国の金融当局による規制を超えて国際的に使われる可能性がある。中央銀行や証券取引所など国境の壁に守られてきた関係者も巻き込む形で世界中に拡大している。その結果、国際的な銀行の合従連衡が生じ、各国の中央銀行がデジタル通貨発行の構想を発表する状況にある。
いずれ証券会社やIT大手も参入
神田氏:仮想通貨の将来には悲観していない。システム、セキュリティー、倫理観などを整備し、証券会社やIT大手が参入してくるだろう。便利に使えるアプリやツールが登場し、仮想通貨のユースケースが積み上がることが重要で、ちょうどインターネットが登場してきた時に似ている。参入プレーヤーも今後、変わってくるとみている。(隔週日曜日に掲載)
著者プロフィール
丸山隆平(まるやま・りゅうへい)
1972~1989年 日刊工業新聞記者としてICT産業、流通業界など取材。1990~2012年、IRコンサルタントとして100社以上の財務広報をサポート。2013年~フリーの経済ジャーナリストとして、経済誌、Webメディアで活動。現在、金融タイムス記者、プレジデントオンライン、ZUUonlineなどに寄稿。著書に『AI産業最前線』(共著、ダイヤモンド社)、『まるわかりフィンテックの教科書』(プレジデント社)などがある。1948年、長野県生まれ。
(2018/7/22 07:00)