[ 政治・経済 ]
(2018/9/10 06:00)
3都市を海上橋と高速鉄道で一体化 経済規模1兆ドル
香港とマカオ、そして中国広東省の珠海を結ぶ全長55キロメートルの海上橋が完成した。かつての英国とポルトガルの植民地と本土がつながる。だが、より難しいのは政治的分裂の克服だということが証明されるかもしれない。
1日当たり約2万9000台の乗用車やトラックが行き来することになる「港珠澳大橋」では、年内に見込まれる開通式に向け準備が進む。この橋の建設は中国の習近平国家主席が描く壮大なプランの一環だ。
中国本土の広東省と香港、マカオという「ベイエリア」から成るいわゆる「粤港澳大湾区」を米カリフォルニア州のシリコンバーに匹敵するハイテクメガロポリスとする構想で、HSBCホールディングスによれば、人口6700万人の粤港澳大湾区は経済規模が1兆ドル(約111兆円)に達し、輸出は日本を抜き世界4位になる可能性がある。
政治的分裂が露呈か
習主席のベイエリア構想は中国の工業力と香港の資本市場、マカオのカジノ産業の結び付きを強める一方で、中国政府の影響力増大に伴う緊張を高めるリスクがある。特に香港は英国からの返還前に中国が約束した「高度な自治」を維持しながら、中国台頭の恩恵にあずかることができるかという難問に直面している。
スタートアップ企業を支援する政府系の組織、香港科技園(HKSTP)のアルバート・ウォン最高経営責任者(CEO)は「香港に必要なのは多様化だ。サンフランシスコにもなれるし、ベイエリアのシリコンバレーにもなれる。この船に乗り遅れることはできない」と話す。
だが香港大学の盧兆興教授(政治学)は「政治的支配のために経済政策を活用するというのは古くからある共産党の戦術だ」と指摘する。習氏が共産党総書記に2012年に就任して以降、こうした懸念は強まるばかりだ。
香港では14年に民主化を求める大規模なデモ活動が展開されたが、その後、香港政府は民主化で譲歩することを拒否し、香港独立を支持する政党の活動禁止に動いている。
広深港高速鉄道の開業、低迷する”香港”
インターネット界の巨人テンセント・テクノロジーズ(騰訊)やスマートフォンメーカーの華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)が本拠を構えるのは香港に隣接する広東省深圳だ。
9月末には香港と中国本土を結ぶ「広深港高速鉄道」が開業。深圳経由で香港と広東省の省都、広州がつながり、香港ではビクトリア湾を臨む新たな鉄道ターミナルで出入境・税関検査が行われる。本土の法執行職員が香港で職務活動をすることを禁じた措置に抵触するとして住民の反発が広がった。
深圳や中国金融の中心地、上海の急成長で、世界最大の人口を抱える中国の玄関口として、香港がこれまで担ってきた役割も圧力にさらされている。香港経済の規模は今や、中国国内総生産(GDP)の3%未満の水準にすぎない。中国に返還された1997年は18%相当だった。香港の貨物港としての地位も世界6位に低下し、上海や深圳に後れを取る。
(2018/9/10 06:00)