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【電子版・連載】出張中に遭遇した小さな事件簿 第21話「印刷技術は素晴らしい」

(2018/10/14 07:00)

  • さかい三十郎。彼は重工業メーカーで造船・プラント・工作機械事業に携わって40年の経歴を持つ出張多きサラリーマンである。彼はサムソナイト鞄(かばん)とバインデックス手帳を愛用している。ちなみにサムソナイト鞄は時に、新幹線の車内混雑時にはいすに替わる(イラスト:小島サエキチ)

 彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。

 「本当にそんなことが起こるの?信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。

 それでは遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。

* *

 筆者が担当する販売促進業務は大きく3種類に区分される。展示会場での実機PR、製品説明会でのプレゼンテーション、そして最も重要な商品カタログの作成である。

 カタログ作成は特に難しい。顧客に“競合機と差別化を図った点、特有の機能”などわかりやすく記載しなければならない。そして、最も苦労するのは“販売価格に見合った高級感あるデザイン・色合い”を出すこと(もちろんデザイン会社、印刷会社に協力を得るところ大だが……)。

 社会通念上のコンプライアンス、ネーミングにも気を使わねばならない。

 最近のネーミングには長いモノが多いそうだ。テレビCMなどの広告予算が減り、店頭で消費者にどんな商品かを理解してもらえるようにするためらしい。少し前には“辛そうで辛くない、少し辛いラー油”という食品が大変なブームにもなった。産業機械なら“チョコ停なし・簡単操作で、生産が進むくん”なんてよいかも。

 筆者の大好きな映画もこの業務に大きく寄与している。特に映画のパンフレットの表紙が参考になる。特徴ある題名ロゴは採用することもある(例えばダイハードやクリフハンガーなどの迫力ある文字ロゴは大型機械カタログに採用した)。

  • (イラスト:小島サエキチ)

 活版印刷はルネサンス期の3大発明の一つとされる(ほかの2つは火薬と羅針盤)。ドイツ生まれの金属加工職人ヨハネス・グーテンベルクが発明者とされ、ヒントは“ブドウ搾り機”。彼が生まれたドイツ・マインツ地方はワインの名産地であり、ハンドルを回して圧力をかける“搾り機”の方法から思いついたらしい。印刷機をプレスと呼んだり、報道関係者をプレス関係者と呼んだりする語源もこの“搾る(press)”からきている。

 合金製の金属活字と油性インクを使用し、初めて旧約・新約聖書(ラテン語)が印刷された(1455年、当時の物価で労働者2年分に相当する高価なもの)。写本で1冊に1年要していたのが大量印刷を可能とし、ルネサンスの拡大につながった。自然科学の分野にも影響を与えたことは特筆すべきだろう。

 現在確認されている最古の年紀のある木版印刷による印刷物は、敦煌で発見された「金剛般若波羅蜜経」(868年)。現存するもので年代の確定する最古の印刷物は、法隆寺に保管されている「百万塔陀羅尼」(770年)だ。

 以降、書物は黒刷りであり、色が出始めたのは江戸時代になってからだ。浮世絵の職人技により多色刷り技術へと進化していく。明治になると欧米の印刷技術が伝来し、わが国特有の色彩感覚がさらに研鑚された。

 ところで、印刷物の色はどのようになっているかをご存知だろうか?写真を拡大して見ると、色のついた小さな点が網目のようになっていて(“ドット”と呼ばれる)、“シアン(青)、マゼンタ(赤)、イエロー(黄)、ブラック(黒)”の4色が判別できる。このドットの細かさが品質を決める(カラー複写機を利用されている方はトナーが4本セットされていることを確認願いたい)。

 “色とは何か”を見つけたのは万有引力の法則のニュートンである。日光をガラスのプリズムに通せば、虹色に分散することを発見している。赤いリンゴを思い浮かべてもらいたい。リンゴに当たる光の中で、赤く光るものだけが反射しこれを目で捉え、青や緑などの光は吸収されるからリンゴは赤いのである。

 色の映画なら国内初の総天然色映画「カルメン故郷に帰る」(1951年、木下恵介監督)がある。リリーカルメンなる人物から牧場主のもとに手紙が届く。“友達を一人連れて近日帰郷する”。実は東京でストリップダンサーをしている娘の芸名であり、運動会やストリップ公演で村中大騒動になる楽しい映画(木下監督の喜劇技量は再評価されるべきだろう)だ。

 昭和40年代初期、まだ白黒テレビの時代に亡父が購入してきたもの、それは画面上にかけるカラー・フィルタであった。画像は3色に区分され“頭は赤、目は青、口は黄色”となる摩訶不思議なものであった(記憶・経験のある読者は少ないかも……)。

 印刷の最高技術品と言えば紙幣であろう。偽造を防ぐ複数の特殊印刷が用いられている。その1つはカラーコピーに対処するための策。派手な色を使うのでなく中間色が採用され、微妙な色の違いがニセ札防止に役立っている。ちなみに1万円札には21色のインクが使われていることはご存知だろうか。

 いま、印刷業界はたいへんな渦中にある。パソコンを始めとするIT技術の進化・普及により活字離れ・本離れが進み、筆者企業のカタログ印刷をしていたB社も倒産してしまった。誠に寂しい。頑張れ街の印刷社、頑張れタコ社長(映画・男はつらいよの葛飾くるまや裏庭の印刷社)!

(雑誌「型技術」三十郎・旅日記から電子版向けに編集)

(2018/10/14 07:00)

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