[ ロボット ]
(2018/10/19 05:00)
深夜も稼働、南デンマーク大
ワールド・ロボット・サミット(WRS)の競技会場には深夜でも稼働しているブースがある。ものづくり部門の初日に断然トップの成績を収めた南デンマーク大学のブースの片隅では、小さな3Dプリンターが休みなく働いている。造形しているのは治具やロボットハンドの先に付ける小さな爪だ。小さな爪が製造業のラインを大きく変えるかもしれない。(小寺貴之)
通常、精密な組み立てには精密な加工機で作った精密な治具が必要だった。だが、今後は3Dプリンター製のラフな爪で、多彩な製品を作り、変品種変量生産を実現する可能性があることを想起させる。
ものづくり部門は小さなネジやワッシャー、軸受、柔らかいベルトなどを組み合わせてベルト駆動ユニットを作る。「タスクボード」課題は組み立て作業を一つ一つ分解して、作業ごとの基本機能を問うものだ。例えばナットを拾い、ボルトに締め付ける作業では、ナットとボルトが締結されていれば5点、ナットを最後まで回していれば8点などと細かな要素技術を評価する。
ユニバーサルロボットを輩出した南デンマーク大はタスクボードで92点を獲得し1位となった。2位の62点とは大差がついた。この秘密の一つが3Dプリンターだ。同大のクリスチャン・シュレット教授は「20分もかからず新しいパーツを造形できる。ロボットの制御チームと3Dプリンターの設計チームの2班体制でWRSに臨んでいる」と説明する。ロボットの制御プログラム調整と並行し、3Dプリンターで治具を作る。他のチームで面白いアイデアを見つければ、自分たちに合わせて改良して導入することも可能だ。
ロボットアームや3次元計測システム持ち込む
秘密はまだある。WRSの競技会場には2台のロボットアームと精密テーブル、3次元計測システムを持ち込んだ。ロボットアームは手首に力覚センサーを搭載した高精度モデルだ。このロボットとテーブル位置関係を精密に調整するために、3Dプリンターで出力した治具と3次元計測システムを利用した。まず治具でロボットアームの先端とテーブルを固定する。テーブルには等間隔に穴が並んでおり、テーブルの穴三つにはまる治具を造形してハンドを固定。この状態で3次元形状を計測する。ロボットの関節角やテーブル上での位置、3次元計測システムからの位置関係を求め、ロボット内部のセンサー情報などと照合して調整する。
初日3位だった金沢大学の渡辺哲陽教授は「テーブルの四方八方に何度もアームを固定していた。10回、20回と繰り返し、何をしているのだろうと思っていた」と振り返る。今回の競技会に限らず、生産ラインの配置換えや生産品の入れ替えなど、製造業でもラインを組み替えることは多く、製造現場でも応用できそうだ。
産ロボの最も泥臭い部分
ロボットハンドは3Dプリンターで造形した爪だけを、部品に合わせて交換する。ハンド自体は両アームとも二本爪のシンプルな構造で、素早く交換できる。ただ3Dプリンターの造形精度は高くはない。このため精度が足りない分を、ロボットアームの力覚センサーでカバーした。部品をもち、組み立て先にぴったりとはまらなければ、先を小さく渦状に動かす。人間の作業者が手探りで嵌合先の穴を探すのと同じ動作だ。もぞもぞと動かしているとぴたりとはまる瞬間が来る。これを力覚センサーを使って実現する。
ただ部品を斜めに持ってしまうと傾きが増強されて落としてしまうため、部品を単に挟むだけでなく、ハンドや爪の面に沿わせるガイドがいる。渡辺教授は「産業用ロボットの最も泥臭い部分。南デンマーク大はそれを丁寧にやっている」と評価する。こうした南デンマーク大の取り組みを、ものづくり競技委員長の横小路泰義神戸大学教授は「競技コンセプトのアジャイル(迅速)とリーンな(無駄のない)を実現してくれている」と評価する。
(2018/10/19 05:00)