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(2018/12/2 07:00)
彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。
「本当にそんなことが新幹線内で起こるの?信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。
それでは車内で遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。
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2012年4月6日(金)の6時30分、いつもの時刻に自宅を出て日課となったTBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」をイヤホンで聞きながら最寄り駅に向かった。この番組では国内外の政治・経済からスポーツまで取り上げるので、朝の情報収集に最適でリスナー暦は20年を超えた。
7時30分、JR東京駅に到着する。いつもなら自然に身体が反応して山手線に乗り換えるのだが、この日は違った。なぜなら、対面に座っていた30歳前後の女性が、三十郎を見つめているのに気づいたからだ。ほかの乗客に合図しているのだろうと思い周りを見渡すが、残った乗客は三十郎のみ。荷物棚からカバンを降ろし、再度女性を見るとまたも目が合った。
三十郎「どうしたの?花粉症で目がかゆいの?」
女性「違います。失礼とは思いましたが貴方が父に似ているので、目を引いてもらうために、思い切って合図を送りました」
三十郎は「誰かに似ている」とよく言われる。五十路になってからは国民新党・元代表の亀井静香氏、元財務大臣の与謝野馨氏、経済評論家の森永卓郎氏に似ているらしい。職場仲間からも、地域の飲み仲間からも、たまにからかわれる。亀井氏が離党騒動でテレビによく登場していた頃は、自宅でもからかわれた。
三十郎「おじさんに似ているとは、お父さんも残念な風体だね」。
女性「実は、父は1年前に他界しました。父が大好きだっただけに、一周忌を前に私に会いに来たのに違いないと思ったからです。毎朝出かける前に父の写真に挨拶しているんです」
三十郎「何歳で亡くなったの?」
女性「52歳です。もしよろしかったら携帯カメラで撮ってもいいですか?母にも見せたいので…」
三十郎「52歳かぁ~、まだ若いのに残念だなぁ~」
写真撮影した後、女性に私製名刺(さかい三十郎)を手渡して別れた。
三十郎の父は44歳の壁を越えられず天国へ向かった。そこで母の口癖は「父の年齢を超えること、親より先に死なないこと」であった。その母も3年前に78歳で旅立った。母と父は死別してから約35年経過しており、無事天国で出会えたのか心配している。これを確認するため青森県・下北半島にある恐山に向かい「イタコによる口寄せ」を試し確認してみたいと考えている。(恐山は高野山・比叡山と並ぶ三大霊場)
52歳で亡くなった芸能人と言えば、美空ひばりと石原裕次郎が双璧だろう。ひばりさんの歌は母の影響もあり、新宿にある馴染みの店で今も密かに熱唱するほど好きだ。(また、ジャズのスタンダードナンバーには聴き惚れることも)
裕次郎の映画は父の影響もあり大好きで、わが家の映画コレクションの中に約30本愛蔵している。2009年7月5日(日)に国立競技場で執り行われた23回忌祭典に参加するとともに、発行された記念本(5,000円)は毎週末に愛読している。映画では特に1968年に公開された「黒部の太陽」(三船プロ・石原プロ共同制作、熊井啓監督)が好きだ。彼の遺言により長い間一般公開されなかったが、2012年春に全国公開興行が始まり喜んでいる。全国で最初に上映された東京国際フォーラムでは3月23日(金)、当時の感動の記憶が鮮やかに甦った。まき子夫人、渡哲也氏の舞台挨拶もあり感激も倍増だった。モノづくり企業への就職を決意したのもこの映画がきっかけであり、思い入れもひとしおだ。
さて、それから5日後の4月11日(水)の昼休み、携帯電話の呼び出しに応えた。
女性「もしもし、突然の電話で申し訳ありません。先日、東京駅の車内でお声をかけた者ですが…」
三十郎「いやぁ~君か。デートのお誘い?冗談だよ。で、どうしたの?」
女性「先日の写真を母に見せたところ、驚き、絶句していました。母もとてもそっくりだと言っています」
三十郎「そんなに似ているの?」
女性「つきましてはたいへんご無礼ですが、母と一緒の席で一度お食事をお願いしたいのですが…」
三十郎「…?う~ん、どうしようかなぁ。でもなぁ…」
女性「ぜひお願いします。平日がお忙しいなら土曜日のお昼でも構いません」
三十郎「(どうも断りきれそうにない雰囲気だ)わかった、4月14日(土)に立川駅ビルのレストラン街で会おう。横浜中華街に負けない味の店があるよ」
そして当日11時、立川駅ビルの待ち合わせ場所に向かった。中華店入口で彼女が待っており、すぐにテーブルに案内された。そこには元日活女優の和泉雅子さん(冒険家でもあった)似の50歳前後の女性が待っていた。挨拶を交わす間も母親は三十郎を直視していた。言葉遣い、仕草も似ているらしい。
三十郎の生い立ちを「映画・男はつらいよ」の口上風におもしろおかしく紹介すると、瞬く間に2時間が過ぎた。この間、ご夫婦の写真も見せてもらったが、確かにイメージは似ている。次回も3人で食事をする約束をして別れた。
自宅に戻ると独身生活をエンジョイしている娘が帰宅していた。せめて娘が彼氏を紹介するまでは頑張らねば、と思う五十路の一日であった。娘はこの連載を読んでいるが今回の分は伏せておこう。
次回は夏に食事をする要望を受けているが、周囲の忠告もあり見送りにしようか悩んでいると、脳裏をこんな映画が横切った。「間違えられた男」(1956年制作、アルフレッド・ヒッチコック監督)。男(ヘンリー・フォンダ)は妻の治療費相談のために保険会社を訪ねる。その会社は過去に2度も強盗に押し入られたことがあり、社内の証言で犯人の容貌と男が似ているために警察へ連行される羽目に陥る。
(雑誌「型技術」三十郎・旅日記から電子版向けに編集)
(2018/12/2 07:00)