[ オピニオン ]
(2019/2/26 05:00)
東京・旧古河庭園近くの自宅を訪ねた際、「甘い洋菓子が好き」と聞いていたので、いくつかケーキを持参した。緊張しながら玄関をくぐると、柔和な笑顔で迎えてくれたのを思い出す。24日に亡くなった日本文学研究者のドナルド・キーン(96)さんだ。
近松門左衛門など近世文学が専門だが、古典から現代文学まで広く精通し、世界に日本の文化を紹介してくれたキーンさん。それだけでなく、現代日本についての警鐘も心を打った。
青春時代を過ごした京都は開発で「昔よりはつまらなくなった」と嘆きつつ、「(当時は)肺結核にかかる学生もいて、僕は寄生虫をもらった(笑)」とおどけてみせる。
また、「日本人は手紙のあいさつで自然に触れるが、英語の手紙にそんなことを書いたらみんな不思議がる」と、自然に敏感な日本人の感性を慈しんだ。一方で「自然を守るための努力を十分しない気がする」と愁い、「日本を愛する人間として、もっともっと自然を守ってくれるように頼みたい」。
晩年は日本国籍を取得し、日本の土となることを選んだ。キーンさんは狂言も学び、太郎冠者を演じたこともあるが、キーンさんの愛した旧古河庭園では今、ツバキの「太郎冠者」が見頃だという。
(2019/2/26 05:00)