[ オピニオン ]
(2019/3/26 05:00)
民間利用を伴わず、公的分野に利用を限るのではマイナンバーの真価は発揮できない。
政府は行政のデジタル化とマイナンバー制度の見直しに関する法案をまとめた。マイナンバーカードを健康保険証と一体化するなど利用範囲を広げる。また行政のデジタル化では、従来の「オンラインでも可能」を一歩進めて「デジタルファースト」の原則を定める。今通常国会での成立を目指す。
マイナンバーに関して、政府は2016年の導入時点で「3年後の見直し」を約束していた。マイナンバー制度は個人情報の保護に重点をおくため、利用可能な分野を厳格に法律で決める仕組みを採用している。民間が新たな用途で使うのは難しい。経団連は今回の見直しに向けて、民間開放を政府に要望した。しかし、法案は民間利用を見送る結果となった。
実際のマイナンバーカードの交付枚数は3月18日時点で1644万枚と、制度導入から3年を経ても国民の12・9%にとどまっている。新たに導入する健康保険証との一体化は「決して普及促進のための施策ではない」(内閣官房)という。ただ今回の法案には、同時にマイナンバーの通知カードの写しで個人認証をする仕組みを廃止することを盛り込んだ。政府としては、これを機にカードの発行枚数を大きく伸ばすことを想定しているようだ。
国民の一部には、いまだに個人情報についての慎重論が残っている。しかしマイナンバーのような合理的な制度はすでに先進各国では常識だ。産業界も導入の促進を期待している。
問題は、これが税や社会保障、戸籍管理など公的な利用に限るという現状だ。本来、マイナンバーはデジタル社会の基盤として、銀行口座の開設や保険契約、クレジットカードの決済、不動産取引など個人認証が求められる多くの分野で利用し、イノベーションを加速することが期待されていた。政府が国民を管理するためだけの制度にとどまっては、産業界の期待に応えられない。あらためて民間開放への道を示すべきだ。
(2019/3/26 05:00)