[ オピニオン ]
(2019/3/29 05:00)
三重県は、虐待が疑われる児童の一時保護を判断する際に人工知能(AI)を活用する試みを近く始める。もちろんテクノロジーは万能ではないし、家族や社会が複雑に絡み合う問題を解きほぐすのは容易でない。それでも命に関わる判断が求められる現場に、客観データに基づく対策を取り入れる意義は大きい。
虐待リスク判断にAIを活用する取り組みは、身体の傷の位置や親に対する指導履歴などさまざまなデータを基に、虐待の重症度リスクや再発確率をはじき出す。リスクアセスメントシート開発を通じ三重県独自の対策を長年にわたり後押ししてきた産業技術総合研究所(産総研)の知見がベースにある。
胸をふさがれるような痛ましい虐待の事実が明らかになる度に、児童相談所(児相)の体制強化や関係機関の連携の重要性が叫ばれる。しかしそれだけで増え続け、かつ複雑化する虐待の問題に対処するには限界がある。政府が国会提出した児童虐待防止法と児童福祉法の改正案では親権者による体罰禁止を明記。児童相談所において、一時保護など家庭への介入対応を行う部署と保護者支援を行う部署を分けることも定めた。
一方、現場を支える職員らの使命感や熱意だけに依存するのは禁物であろう。とりわけ「介入」と「支援」の分離を進める上では経験や直感に頼るだけでなく、テクノロジー活用の余地が大きいのではないだろうか。
こうした判断の一助となるのがAIだ。特にAIによるデータ分析は、一時的な保護が必要かどうかだけでなく、家庭に帰すか否かを判断する際も大きな意味を持つと考えられているからだ。限られた情報の中で将来を予測することは人間の能力では限界があり、機械学習や確率モデリングといった手法が生かされる余地が大きい。
小さな命を守り、健やかな成長を見守ることは社会全体の責任だ。技術を過度に過信したり、厳しい現場と対峙(たいじ)する職員の経験を否定するものであってはならないが、新たな手法を喫緊の課題解決に生かしたい。
(2019/3/29 05:00)
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