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(2019/4/26 05:00)
イノベーションを次々と生み出すには生まれた成果を特許にして保護し活用する必要がある。特許などの知的財産の活用は企業戦略の大きな柱で、海外に進出する企業にとっても避けては通れない。一方、知財戦略を立てる人材の育成も急務。大学側は実際の知財現場で活躍する人材を教員に迎えるなど、世界に通用する知財人材の育成を目指している。
社会人の受講も増加
国士舘大学 特許事務所で実地業務 会計士や公務員も入学
国士舘大学大学院総合知的財産法学研究科は、企業に知財戦略を提案できる人材を育成する。教員には現役の弁理士を迎え、現場の事例を踏まえた授業を行う。さらに企業や海外などで学生が体験した具体的事例が授業の中で出ることもあり、学生と教員が互いに刺激を受ける。
大きな特徴は教員が所属する特許事務所に学生を1~2週間受け入れ、実地業務を行う「エクスターンシップ」制度だ。同研究科の飯田昭夫教授は「10年の実績があり、学生だけでなく、受け入れ先の事務所からも好評」と笑顔を見せる。
5年ほど前は法律学を学んだ人の入学が多かった。だが「公認会計士や経理担当の公務員、経営学を学んだ学生など入学する学生の質が変化している」(飯田教授)。特に中国では知財に関する法整備が進まず、逆にこうした知財分野にビジネスの可能性を感じ関連する大学での学習を望む中国人もいる。
異分野の入学者に対応するため、日本の民法や知財全般の学習を入学前に実施。入学後には国内外の特許や意匠、商標を調べる演習や秘密保持に関する授業などを行う。さらに就職した卒業生が現場の法律問題を現役教員に無料で相談できるなどアフターケアも万全だ。手厚い教育で知財人材のレベル向上につなげている。
金沢工業大学 「IPランドスケープ」 知財をビジネスに活用
K.I.T.虎ノ門大学院で知られる金沢工業大学のイノベーションマネジメント研究科・イノベーションマネジメント専攻は、社会人に特化した知的財産とビジネスに関する大学院だ。
今春の目玉は、特許などの知的財産(IP)をビジネスに活用する科目「IPランドスケープ要論」の開講だ。知財データを経営・事業戦略や市場調査に活用する。「オープンイノベーションの時代に自社の知財権確保と他社との協働とを両立する意識が高まっている」と加藤浩一郎専攻主任は分析する。
知財に強い経営コンサルタントや特許情報分析の企業経営者が客員教員で教壇に立つ。一方、受講生の約半分は社会人の科目等履修生が占めている。
近年、科目等履修生制度の活用が増えている。2019年度の入学者の約3分の1が18年度の科目等履修生で数単位を取得している。入学を迷う社会人がお試しで履修でき、入学すれば単位として認められる。入学後の時間的な負担を減らせるメリットは大きい。さらに修了生は通常の半額で受講が可能。
多忙なビジネスパーソンを引きつけることが生き残りのカギとなる。18年度は人工知能(AI)コースを開講。データ分析のアルゴリズムを知財にするなど、AI・データ関連の知財やビジネスで学内外の受講生を集めている。
大阪工業大学 知財学部と専門職大学院 実践力養うカリキュラム
大阪工業大学は日本で一つだけの知的財産学部と知的財産専門職大学院を設置しており、社会や産業界のニーズに応える知財人材の養成にあたっている。知的財産学部では、学生が卒業後に学んだことを社会で実践的に生かせるカリキュラム体系となっている。2017年度からは「知的財産プロフェッショナル」「ブランド&デザイン」「ビジネスマネジメント」の3コース制で構成。専門科目や演習科目も各コースで充実しており、知的財産を学べる国内唯一の専門学部としてビジネスの現場で活躍できる人材を育成している。
その成果はさまざまな形で現れている。18年度の弁理士試験に藤原誠悟さん(当時、学部3年)が合格。学部在籍者として17年度に続き2年連続で最年少合格者となった。さらに文部科学省、特許庁など主催の「平成29年度デザインパテントコンテスト」で森崎達也さん(当時、大学院1年)が優秀賞を受賞し、意匠権を取得。大阪府内の大学では個人で意匠権の取得は初となる快挙だ。
同専門職大学院知的財産研究科では19年度からビジネスに関わる知識を学ぶカリキュラム「事業戦略事例研究I・II」を実施。経営の観点から知財を捉えてもらう試みで、特許庁のケース教材を活用し、ディスカッション形式で行う。ビジネスの実例を使用するため、より実践的に学べる。また18年度から始めた「知的財産事業化演習」は正規科目として近畿経済産業局主催の事業化コンテストと連動。同年度は大学院生と学部生の2チームが審査委員特別賞の受賞を果たした。
【業界展望台】発明の日特集は、5/1まで全9回連載予定です。ご期待ください。
(2019/4/26 05:00)