産業立地 不透明化するこれからの設備投資

(2020/3/24 05:00)

業界展望台

日本立地センター 産業立地部 部長 藤田成裕

これまでインバウンドの増加、事業継続計画(BCP)、労働力不足への対応、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)関連技術の普及を背景として、設備投資が堅調に続いてきている。これに加えて、働き方改革や生活様式の変化で新たな動きも見られる。ただし、ここに来て、米中貿易戦争、新型コロナウイルスによる影響は避けられず、先行きは不透明感を増している。

旺盛な物流業の設備投資意欲

日本立地センターでは、毎年9月に製造業1万5000社、物流業5000社に対して、今後の設備投資の意向を調査している。

製造業で新規立地を計画する企業の割合はバブル期の1990年は38.9%もあったが、バブル崩壊後に一気に落ち込んだ。その後、国内回帰と呼ばれた2007年に13.7%まで戻ったものの、リーマン・ショックで再び落ち込んだ。11年頃から再び上がり、17年は18.8%とバブル崩壊後最も高くなったが、19年では16.7%と若干下がっている。

12年から調査を始めた物流業は、一貫して製造業よりも設備投資意向が高く、19年は24.3%と統計を取り始めてから一番高い数値となった。

物流業の設備投資意向が旺盛な背景は、ドライバーなどの労働力不足に加えて、ネット通販の拡大があげられる。経済産業省の調査によると、18年の日本の個人向け電子商取引(EC)市場規模は、13年の13兆円から約1.4倍の18兆円に拡大しており、BツーC取引の6.2%を占めるに至っている。また、国土交通省の調査によると、宅配便の取り扱い個数も、17年は43億個と、この10年間で11億個もの増加となっている。

このため、首都圏では、東京湾岸エリアや首都圏中央連絡自動車道(圏央道)周辺エリアを中心に大型物流施設の立地が続いているものの、不足感がまだ強い。地方圏でも規模の差はあれ、同様の動きが見られる。今後もEC化率が高まるのは確実で、その結果、しばらくは物流業の旺盛な設備投資意欲は続くものと考えられる。

  • 新規立地計画を有する企業割合の推移

続く国内回帰と国内活動の課題

東日本大震災直後の11年では、「国内事業を強化する」企業は約30%だったが、この数年増加してきており、19年では2倍の約60%となっている。ただ、国内での不安要因として、「人材不足」を7割近い企業があげており、労働力不足の深刻さがわかる。それに伴い賃金上昇による「賃金等のコスト高」をあげる企業も4割を超えている。そのため、設備投資して強化する内容として、「人材の確保・育成」や「自動化の推進」といった項目がこの数年増加している。

また、東日本大震災以降も、熊本、北海道の地震や西日本の水害など、自然災害が相次いでいることから、「地震などの自然災害」を不安要因にあげる企業は東日本大震災直後よりも1割以上多く、4割を超えている。

災害対応の一つであるBCPを理由にした設備投資の意向を見てみると、東日本大震災以前は5%程度で推移していたが、震災後は10%を超えた。その後は一時期下がったものの、19年でも10%弱となっている。なお、同調査の実施時期は、東日本各地が台風15号、19号により大きな被害を受ける前の9月であるため、現在の企業の災害への危機感はもっと高くなっている可能性は十分考えられる。

  • Eコマースの市場規模とEC化率

インバウンドと働き方改革

最近の特徴の一つに、インバウンドの増加などに伴う設備投資が見られる。例えば、資生堂は栃木県と福岡県に化粧品の工場を、ユニチャームは福岡県に、大王製紙は岐阜県と愛媛県でそれぞれ紙おむつや衛生用品などの工場を、ファンケルは静岡県にサプリメントの工場を立ち上げる。旅行客の中心であるアジアの人々が、直接肌に触れるもの、飲用するものに対する日本製への信頼度が高く、以前のような「爆買い」は見られないものの、帰国後もいいものは越境ECで購入するケースが多いことが背景にある。また、各地で宿泊先不足対応として、新たなホテルの建設ラッシュにより、空調機をはじめとした付属設備の需要の拡大が見込まれており、各種メーカーなども設備投資を行っている。

広い土地への立地ではないが、サテライトオフィスなどテレワーク関係の立地も注目されている。自然豊かな離島や辺境地に完全な移住を伴う施設立地とは別に、昨今の働き方改革を受けて、一定期間リゾート地で働きながら休暇を取るという「ワーケーション」(働く=workと休暇=Vacationをあわせた造語)への注目が高まっている。

三菱地所は和歌山県でIT施設の一室を賃貸し、東京丸の内エリアのテナント企業を中心に短期のワーケーション施設として整備して貸し出すサービスを開始した。テレワークは今回の新型コロナウイルスや東京五輪・パラリンピックの対応策としてあげられており、今後もさまざまな動きが出てくるものと考えられる。

今後の状況は不透明

ここまで述べた企業の設備投資意向の状況は、20年に入ってから不透明感を増している。原因の一つは、米中貿易戦争による影響で、中国からの輸出の減少を受けて、中国向けの部材などを直接的、間接的に輸出する業種を中心に19年末頃から仕事量が減少していた。二つめは、現在の新型コロナウイルスの影響である。こちらはさらに深刻で、グローバルなサプライチェーンを構築してきたばかりに、今回のように各国が国境を封鎖してしまうと、輸出入を止めていなくとも、モノの動きが停滞してしまう。それがために、フル稼働できていない国内企業が少なくない。また、世界中のさまざまな自粛ムードの中で消費意欲の大幅な減退は避けられない。

このような状況から、すでに予定していた設備投資を先延ばし、あるいは、凍結する企業もすでに出てきている。今後の事態の推移によって、設備投資動向も大きく影響を受けることは避けられない。

工業団地インフォ

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https://estate.nikkan.co.jp/info/

〈日刊工業新聞社〉

(2020/3/24 05:00)

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