(2020/5/14 05:00)
新型コロナウイルス感染症への対応を機に、9月入学・始業の声が高まっている。多大な予算や労力が必要な大規模制度改革を、非常時に検討するのは適切でない。休校中と再開後の支援に集中し、学業の遅れや格差の解消に注力すべきだ。
学校休校が長期化するなかで、全国知事会などから9月入学が問題提起され、政府は検討に入った。9月入学は1980年代の臨時教育審議会でも議論され、問題点が多いため実施は見送られた。
日本の学校制度は会計年度をはじめ、社会の年度単位の諸制度と関係が深く、変更は多方面に影響を及ぼす。日本教育学会は9月入学について「性急な決定を避けるべきだ」と声明を出した。5カ月の後ろ倒しで学費収入は、私立大学だけで1兆円近く欠ける。義務教育開始年齢が遅れ、移行期は入学人数が1・5倍になると問題の大きさを説明した。
産業界と関わりが大きいのは新卒一括の採用活動だ。コロナ対応で活動の日程は柔軟になる方向だ。いずれは日本も即戦力の中途採用を主力とする採用通年化、随時入社が普通になるかもしれないが、9月入学で学生の就職活動にどのような影響が及ぶかや、受け入れる産業界側の声も聞く必要がある。
9月入学のメリットは平常時において「大学の国際化対応くらいしかない」との声は強い。現状でも、秋の後期入学は複数大学で実施され、留学生や社会人が入学している。東京大学が浜田純一前総長のリードで検討した秋入学は、高校卒業後に自らを見つめ直す期間「ギャップターム」の導入が狙いだった。これは東大で入学直後の学部生が休学し、国際交流やボランティアを行うプログラムに形を変えている。国際化ではまず、留学生向けの英語学位課程を増やすなど、大学側の手だては入学時期以外に多数ある。
今、すべきことは学ぶ機会を奪われた児童・生徒・学生を支える早急な対応だ。アルバイト先の休業で収入を失い、困窮する大学生も多い。国民の本当の思いを見誤ってはならない。
(2020/5/14 05:00)
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