(2020/5/18 05:00)
鉄鋼業界は“コロナショック”で、かつてない大幅な減産措置を余儀なくされている。メーカー各社には、経済危機を何度も乗り越えてきた底力の発揮と、次代のモノづくりに資する開発力の錬磨に期待したい。
自動車の生産調整や建設工事の中断などを受け、基礎素材である鉄鋼の需要が急減している。経済産業省がまとめた4―6月期の国内粗鋼生産量の見通しは、前年同期比25・9%減の1936万トン弱。3月上旬の調査に基づくため、感染の影響は一部しか織り込めていないが、この通りなら四半期ベースでリーマン・ショック後以来、11年ぶりに2000万トンを割り込む。
20年度の粗鋼生産量について、日本製鉄の橋本英二社長は「コロナが9月末までに収束したとしても、(年間では)8000万トンを下回るだろう」と予測する。リーマン後の09年度でさえ9645万トン弱だったから、今回の厳しさがうかがえる。
需要減を受けて日本製鉄は、北九州市小倉北区の高炉で予定していた休止を前倒しするとともに、北海道室蘭市、茨城県鹿嶋市、千葉県君津市、和歌山市の高炉で、再稼働を前提に一時休止する。JFEスチールも岡山県倉敷市、広島県福山市の高炉の一時休止を決定した。
各社とも足元で3割を超す減産で、日鉄は85年のプラザ合意後の鉄鋼不況時の生産能力削減に並ぶ。悩ましいのは、両社とも今年2―3月に高炉の将来的休止など構造改革案をまとめており、今回一連の措置を“追加”した点だ。従来の需要減は米中貿易摩擦によるところが大きかったが、問題が解決しないままにコロナが襲った。
苦境の今だからこそ、日鉄の橋本社長は「日本経済の基礎を支える役割はコロナの影響で一段と大きくなる」と業界関係者を鼓舞する。当面は感染予防策をとりながら、事業を継続する難しい対応を迫られる。それでも次なる飛躍に向けて体力を付けるときだという共通認識がある。鉄鋼各社は、中国や欧米の追随を許さない高付加価値製品の開発と実用化に一段と力を入れてほしい。
(2020/5/18 05:00)