(2020/2/28 05:00)
気候変動により世界各地で災害や食料問題が頻発している。その原因の一つである温室効果ガス、特に二酸化炭素(CO2)の排出抑制やゼロ化(脱炭素化)への有力な対策として太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーの利用拡大に世界の注目が集まっている。2019年に筆者が米国、フランスで入手した情報を基に、世界・欧州・米国・日本の再エネに関連した政策や産業動向について紹介し、再エネの利用拡大に向けて今後日本としてどのような観点で取り組むべきか考えてみたい。
( 【執筆者】日本能率協会コンサルティング ラーニングコンサルティング事業本部 事業開発室 エネルギー産業担当 江原央樹)
昨年11月、OECD加盟国で構成される国際エネルギー機関(IEA)が、世界の最新のエネルギー動向や40年までの見通し「World Energy Outlook 2019」を公表した。現行政策・政策強化・パリ協定順守の三つのシナリオで分析されている。
いまだ電力を利用していない人々が世界に約10億人存在し、世界のエネルギー消費は、現行政策シナリオでは毎年1・3%、政策強化シナリオでは毎年1%増加する。今後40年までに新設される発電設備について、太陽光と風力が政策強化シナリオでは半分以上、パリ協定順守シナリオではほぼすべてを占める。再エネ発電が20年半ばに石炭火力発電を追い越す可能性が示唆されている。
また、過去20年間における石炭火力発電所建設の90%をアジア地域が占めており、平均すると設置後12年である。そのため、CO2回収・有効利用・貯留(CCUS)やバイオマス混焼などの対策、もしくは廃止が必要になるとのことである。
世界のエネルギー消費量は今後も増加し、それを賄うために太陽光・風力発電による電力供給が拡大すると見られる。一方、天然ガス・石油火力発電に比べCO2の排出量が多い石炭火力発電については、比較的新しい設備が多く稼働していることから、廃止も含めた既存設備への対策の重要性が指摘されている。高効率な新設備の輸出を推進する日本には逆風である。
欧州 気候変動対策が最優先 行政主導、経済と両にらみ
次に欧州について目を向けよう。近年、森林火災、洪水、台風による大災害が発生しており、17年の自然災害による被害額は約2830億ユーロ(約34兆円)であり、気候変動リスクへの対応が最優先課題となっている。世界の温室効果ガス排出量の10%を27カ国で構成される欧州連合(EU)と英国地域が占めており、EUは50年のカーボンニュートラル実現に向けた長期目標を設定した。
30年までに1990年比40―45%、2050年までに60%以上の排出量削減を達成するため、加盟国に21―30年のエネルギーと気候変動対策に関する計画「National energy and climate plans(NECPs)」の作成・提出と確実な実行を義務づけている。EU全体としては、18年時点で最終エネルギー消費全体の17%を占める再エネの利用を30年には32%に引き上げる。
具体的な最近の動きとして、昨年12月にEUの政策執行機関である欧州委員会は「The European Green Deal」(50年時点にてEU全体で温室効果ガスゼロかつ資源利用に依存しない経済成長を実現する公正かつ豊かな社会へ変わるための新しい長期戦略)を打ち出した。気候や環境に関連した課題について規制・標準化・投資・イノベーション・国家改革・対話などあらゆる面の加盟国支援の方向性が示されている。
30年までの気候・エネルギー関連の目標達成のためには、毎年2600億ユーロ(約31兆円)の追加投資とEUの10年間の投資計画として少なくとも1兆ユーロ(約120兆円)の準備が必要と認識し、行政主導でリスクへの対応と経済の両立を目指している点が欧州の特徴である。
米国 官民が一体 迅速に行動 CO2排出量減少傾向
米国はトランプ政権による石炭・シェールガスなどの産業支援を目的とした温暖化対策規制の見直しやパリ協定脱退により、一見すると気候変動対策へ消極的な国と映る。しかし、国土が広大な米国は州ごとに気候・産業・政策が異なるため、エネルギー動向を一言で表現するのは難しい。
08年以降、技術革新による低コストの国内産シェールガス(天然ガス)が台頭し国内の火力発電用燃料が石炭から天然ガスへシフトした。また、オバマ政権時の連邦・州政府の推進政策と設備導入コストの劇的な低下により再エネの導入・利用が全米各地で進んだ。ここ数年は、グローバル展開する企業を中心に気候変動がもたらす災害などを経営上の重大リスクと認識し、その対策の一つとして事業活動で利用する電力を100%再エネに切り替える企業が増えている。
これらの取り組みにより、米国のCO2排出量は年々減少してきた。今後の大きな課題は、物流や観光で利用される内燃自動車におけるCO2排出のゼロ化である。人口が全米第一位で脱炭素化政策に積極的なカリフォルニア州では、温室効果ガス排出量に関し、対1990年比で2030年に40%減、50年に80%減の目標を掲げる。
重点分野である運輸部門について、ゼロエミッションビークル(主に電気自動車・燃料電池車)を30年までに、500万台(18年は42万台)、充電ステーション25万カ所(18年は1万5000カ所)、水素ステーションを200カ所(18年は35カ所)導入する計画である。
実際に20年の導入を目指し大型のピックアップトラックの電気自動車開発にアマゾンやフォードが多額の投資を行っている。大手ビールメーカーが25年のCO2排出ゼロ実現を目標に掲げ、再エネにより電気分解した水素で走る燃料電池40トントレーラーを米国のベンチャー企業に800台発注するなどの動きがあり、官民が一体となり企業活動に直結した大胆かつ迅速な取り組みが米国の特徴である。
日本 電力需給の見える化推進 「運輸・家庭・業務」に課題
最後に日本を見てみよう。最終エネルギー消費について、産業部門では省エネが進展してきたものの、運輸、家庭、業務部門では、エネルギー利用機器や自動車の普及により増加傾向であり、CO2排出量削減の観点から今後さらなる対策が必要である。
エネルギー供給については、島国ということもあり1次エネルギーの自給率が低く、海外の化石資源依存からの脱却が高度経済成長期以来の課題だ。エネルギー利用効率の高い天然ガスや原子力の利用が推進されてきた。東日本大震災とそれに伴い発生した原発事故の影響により、安全性が高く環境にも優しい再エネの利用が普及しつつある。
国の第5次エネルギー基本計画では、再エネの主力電源化の方向性が示され、発電量が天候などに左右される再エネ由来電力も加味した全国レベルでの電力の負荷平準化に向けた技術・市場・制度開発が進められている。
例えば、全国各地に分散する再エネ発電設備や蓄電池の稼働・充放電状況や電力の消費状況をタイムリーに見えるようにし、需給バランスを自動最適制御するバーチャルパワープラントの技術開発やその利用による市場の創設が推進されている。パリ協定順守に向けては、50年に対13年度比80%のCO2排出量(約10億トン)を削減する必要がある。しかし、17年度のCO2排出量(11・9億トン)・割合をベースに換算すると発電所などのエネルギー転換部門・運輸・業務・家庭各部門すべての排出量をゼロにしてようやく達成が可能であり、現時点でその道筋は見えていない。
国土が限られる国内でのさらなる再エネの導入促進策の検討に加え、欧州・米国といった気候変動対策に積極的な地域の投資事業への製品・システム・サービスの事業拡大を強力に進め、事業化支援を行うとともにその投資事業における排出量削減効果を排出量取引により獲得していく。そのようなグローバル脱炭素化戦略を打ち立て日本が世界の持続可能な社会実現をけん引することを願う。
(2020/2/28 05:00)