(2020/12/30 05:00)
魚屋の勝っあんは酒好きが過ぎて貧乏暮らし。嫌々仕入れに出た早朝、大金の入った財布を拾う。有頂天で酔いつぶれるが、目覚めるとカネはなし。「夢でも見たんだろうよ」と女房に叱られ、断酒を決意する。
落語『芝浜』は人情噺(はなし)の名作で、年末の寄席の定番演目だ。寒い冬の朝に勝っあんが向かった東京・芝浜の魚市場は、JR山手線の田町駅北側の線路脇にあった。
明治のはじめに鉄道建設用地がなく、海岸沿いに堤を築いて線路をひいた。先ごろ高輪ゲートウェイ駅周辺の再開発で築堤の一部が出土して話題となった。
『芝浜』の成立は明治中期。財布を拾った浜は東海道線から見下ろされていたわけだ。今は埋め立てられて公園になり、往事は想像しにくい。ただ細やかな夫婦の愛情は現代にも通じる。
断酒して懸命に働き、通りに店を開いた勝っあん。女房は大晦日(おおみそか)の夜、ウソを打ち明ける。亭主が横領の罪を問われぬよう、拾った大金をお上に届け、下げ渡されるまで隠していたのだ。勝っあんは怒らず逆に感謝する。女房が3年ぶりに出してくれた燗(かん)酒に口をつけようとして思いとどまる。「よそう。また夢になるといけねえ」―。皆さま、どうか良いお年を。
(2020/12/30 05:00)