(2021/1/26 05:00)
英国が近く環太平洋連携協定(TPP)への加盟を申請する。自由貿易の新たな秩序づくりが前進するものと歓迎したい。ただTPP議長国の日本は、加盟を検討する中国への対処など課題も多く、陣容の拡大には慎重な対応も求められる。
英国は貿易の半分を占める欧州連合(EU)から離脱し、EU域外での貿易協定の拡大が課題。成長を見込めるアジア太平洋地域で通商上の存在感を高めたい意向で、自由貿易圏の拡大を推進する日本政府は検討段階から英国加盟には歓迎姿勢を示している。実現すれば12カ国目の加盟となる。
TPPには中国も秋波を送る。米国抜きのTPPに加盟することで、米国が主導する対中包囲網(米日印豪)をけん制する狙いがある。中国は世界最大の自由貿易圏である東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も昨年11月に主導し、15カ国が署名。さらに昨年末には中国とEUが包括的投資協定で合意するなど、バイデン米大統領が就任するまでの政治空白を狙うように経済圏の拡大を急いだ。
ただ中国にとってTPPのハードルは高い。菅義偉首相は、国営企業で経済を運営する現体制での加盟は難しいと指摘。そもそも日本は同盟国の米国がTPPに復帰する前に中国との関係を優先する選択肢はないだろう。加えてTPP加盟国のベトナムは中国と南シナ海をめぐる領有権問題を抱えるなど、11カ国による同意は想定しにくい。
日本政府が期待する米国のTPP復帰も見通せない。バイデン新政権は保護主義から国際協調に路線を戻すが、当面の課題は新型コロナ対策と自国の経済対策。雇用を奪われかねないTPP復帰に“ラストベルト”の反発は強く、復帰に動けば分断が進みかねない。2022年に中間選挙を控えるだけに議論の俎上(そじょう)に載るかも疑問だ。
米国が仮に22年以降に復帰した場合、中国との貿易が多いアジア諸国の中には、中国との関係悪化を懸念する指摘も出てきそうだ。当面は米中以外で加盟国の拡大を目指すことも、選択肢の一つに加えておきたい。
(2021/1/26 05:00)
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