社説/日鉄が東京製綱にTOB 経営改善への説明が足りない

(2021/2/24 05:00)

日本企業同士の敵対的TOB(株式公開買い付け)が珍しいものではなくなりつつある。しかし株主への説明においてはもう一段の工夫が必要だ。

日本製鉄が出資先で顧客でもあるワイヤロープ国内首位の東京製綱にTOBを仕掛けた。TOB表明時点で日鉄は東京製綱の株式を9・9%保有する筆頭株主。それを3月8日までに19・9%まで買い付ける。

日鉄はTOBの理由として、業績不振と財務健全性の悪化を挙げ、経営責任を問うべき取締役会の監督機能が果たせていないと指摘した。中でも20年弱トップに立つ日鉄OBの田中重人会長を、ガバナンス(企業統治)上の課題と問題視した。

東京製綱側は事前通告なしのTOBに反発し、反対を表明。敵対的TOBに発展した。鉄の取引拡大要求など日鉄の影響力が増大すれば「株主ら全ステークホルダーの共同の利益を実現できず、(日鉄のTOBは)株主と利益相反する」と指摘した。同社は炭素繊維製ケーブルに活路を見いだすが、日鉄は事業の行方が不透明と指摘している。

日本でも伊藤忠商事によるデサント、コロワイドによる大戸屋ホールディングスなど敵対的TOBが実施されている。両社はTOBでそれぞれ40%、46・7%を取得し経営を事実上掌握し取締役も送り込んだ。

今回の日鉄の取得目標は19・9%で、持ち分法適用会社の対象にもならない。日鉄側はあくまで東京製綱が自律的に経営体制を見直すことを求めており、現時点で日鉄からの取締役の派遣なども表明していない。

日鉄のこの説明だけで、株主は果たしてどちらの言い分が東京製綱の企業価値を高めるものなのかを判断できるのであろうか。東京製綱の経営改善に日鉄がどのような役割を果たすのかを、東京製綱および日鉄の株主に明確に示す必要があるのではないか。

企業のガバナンス不全をTOBで株主や世に問うというという手法が、どう受け止められるのか。TOBが成立したとしても、その後の両社の対応が問われている。

(2021/2/24 05:00)

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