モノづくり日本会議/モノづくりの進むべき道 ミスミグループ本社 常務執行役員・吉田光伸氏

(2021/2/24 05:00)

ミスミグループ本社は、機械や設備の自動化に必要な部品を短期で受注生産するデジタルサービス「meviy(メヴィー)」で、労働生産性の改革とモノづくり産業のデジタル変革(DX)を目指す。調達時間を最大9割削減できるのが特徴。大手や中小企業の技術者の支持を集め、現在5万人以上が活用しオンライン機械部品調達サービスにおいてトップシェアを誇る。吉田光伸常務執行役員に製造業の課題と同サービスが求められている背景を聞いた。

調達のデジタル化後押し、調達時間最大9割削減

生産性が低下

―製造業では労働生産性の向上が喫緊の課題です。

「製造業は日本の基幹産業で国内総生産(GDP)に占める割合は2割になる。世界シェアが60%以上にもなる製品は270品あり、米国の2倍、中国の5倍と国際競争力も極めて高い。だが、2000年代は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも上位だった労働生産性は現在、下降の一途をたどっている。投下した人材や時間に対して商品やサービスに価値が付与できなくなっている」

―なぜでしょうか。

「一つは生産年齢人口が減っているため。もう一つは働き方改革による実労働時間の減少だ。日本の製造業は38万社あり、99%が中小企業。先行き不透明で人材も集まらないだけでなく、新設備など固定費は増やせない。そのため、経営が悪化して廃業するという負のサイクルが生まれている。80年代には『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と言われた。モノづくりに費やす人と時間が膨大にあり、日本経済の成長期を支えた。労働力と1人当たりの就業時間を掛け合わせることで生まれる『成果』がある。現在は人が減り、労働時間も減る。そのため掛け合わせた『成果』も小さくなっている」

受注と同時に加工

―少ない時間で最大のアウトプットを出すために必要なことは。

「人を急激に増やすことは難しい。そのため、付加価値につながらない時間をそぎ落とすべきだ。もはや労働生産性の改善ではなく『改革』を進める必要がある。製造業には設計・製造・調達・販売のバリューチェーンがある。設計にはCADを活用し、モノづくりも手作業からロボットへ移行している。販売も電子商取引(eコマース)などが利用され始めている。一方、デジタル化できていない領域が調達の分野だ」

―調達はなぜデジタル化が進まないのでしょうか。

「紙の図面を描きFAXで送受信しているためだ。例えば、部品点数が1500点の設備を設計する際、1枚につき30分で図面が描けたとしても750時間必要だ。また、ソフトウエアで設計しているにもかかわらず、見積もりにはFAXを使うのが主流だ。本来ならCADデータのまま見積もり依頼を出せば速いのだが、見積もりを依頼する顧客により、利用するCADの種類が異なる。注文を受ける加工業者が複数種類のCADをそろえることはできないため、結局は誰もが持っている紙やFAXが主流になってしまう。製造業におけるFAX利用率は98%と非常に高く長年進化が止まっている状況だ」

部品価格・納期、AIで数秒算定

―メヴィーでこの課題に取り組みます。

メヴィーはAIを使い部品の価格・納期を数秒で算出

「ミスミでは40年を費やし、3300万点の商品をカタログで調達できるようになった。ただ、どうしても標準化が難しいものもある。メヴィーでは『人工知能(AI)自動見積もり』と『デジタルモノづくり』の二つのイノベーションで、特注品の調達時間削減を実現する。お客さま側には、設計データをアップロードすると形状を認識し、数秒で価格と納期をはじき出すAIを用意。生産側では設計データから工作機械を動かすためのプログラムを自動で生成する機能を持たせている。人を介さず受注と同時に加工を始められる。紙の図面を描くのは作業であり付加価値を生んでいないにも関わらず多くの時間を費やしているのが実情だ。メヴィーでこのような時間をそぎ落とし、人間にしかできない製品開発などに費やす付加価値の高い時間を生み出す」

道具使い進化

―今後の展望は。

「中小企業でも付加価値のない製品の加工はメヴィーに外注し、価値が高い部品は自社で加工するなど、うまい使い方も進んでいる。それでも、まだまだ普及の余地がある。また、21年度からはグローバルでのサービス展開を始めるほか、提供する部品の拡大と短納期化にも磨きをかける。人類は道具を使うことで進化してきた。メヴィーは道具であり、製造業がこの道具をうまく活用して、より競争力を高めていくことにミスミとしても貢献していきたい」

(2021/2/24 05:00)

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