(2021/2/24 05:00)
1月11―14日(米国時間)に初の完全オンラインで開催されたデジタル技術見本市「CES2021」。これを受け、モノづくり日本会議では1月25日に「CES2021に見るハイテク/モビリティーの最新動向」と題したウェブ講演会を実施、毎年CESをウオッチしてきた日本政策投資銀行の青木崇氏に、今回の見本市におけるハイテクやモビリティー産業の新たな動きについて解説してもらった。(協賛会員向けにアーカイブ映像を公開中)
車向けプログラミング人材重要に
日本政策投資銀行 産業調査部 産業調査ソリューション室室長・青木崇氏
今回のCESのテーマを整理し、(1)脱炭素・環境問題への対応(2)コロナによる価値観の変化(3)最新技術がもたらす変化(4)2050年を見据えた企業行動―の四つに大きくまとめてみた。
(1)についてはGM、パナソニック、マイクロソフト、サムスン電子などが言及する中、ボッシュは世界400拠点でカーボンニュートラルを達成したとアピール。GMは「リポジション(再構築)GM」という言葉で、電気自動車(EV)シフトを強調。電源プラグを模した企業ロゴへの変更からバッテリーを搭載するEVシャシーの統一、リチウムイオン電池でのコバルト使用削減、スマホアプリによるEV管理などEV一色だった。とはいえ、欧州や日本で議論になっているEVの製造過程におけるエネルギー構成の話題には一切触れられなかった。
日本との意識の違いを感じたのは、(2)のコロナによる価値観の変化についてだ。欧米では厳しいロックダウン(都市封鎖)を経験しているので「本当に世界が変わった」という人が多い。車がセカンドハウスになるとのコメントもあり、車の居住空間としての快適性が重要なテーマになる。その延長線上で、パーソナルモビリティーとしての空飛ぶクルマや、宅配需要の急拡大でGMがフェデックスと提携し将来、宅配の自動運転を検討という話もあった。
車関連のセッションでは、ソフトウエアのバージョン管理の観点から、コネクテッドカーの中古車市場をどう設計するか、という問題提起もされていて興味深かった。
(3)の最新技術としては、パナソニックの拡張現実(AR)仕様の車載用ヘッドアップディスプレー(HUD)や、パネル全面がディスプレーで覆われ、音声で受け答えするメルセデスベンツのインフォテインメントシステム「MBUX」などのデモもあった。
機電一体化やソフトウエア化に伴ってプログラミングの重要度はさらに増していく。ボッシュによれば10年に車1台当たりのプログラムコードが合計1000万行程度だったのが、今では1億行ぐらい、将来の自動運転車では5億行まで長くなるという。そうなるとプログラミング人材が重要ということで、同社では関連人材を1万7000人確保しているという。ここが自動車メーカーの今後の競争分野となる。
コロナ後の産業・社会、見つめ直す動き
(4)で印象的だったのが、コロナ禍を受けて環境問題からダイバーシティー(多様性)、ライフスタイルの変化、街の在り方などを根本から問う長期的な話題が議論されていたこと。また、マイクロソフトからは「技術は全人類のために使われるべきものだ。ただ技術自体に良心はないので、使う人間側に良心が求められるということを産業界は心に刻むべきだ」といった発言もあった。
50年を見据えた長期的な視点で、各CEOがコロナ後の社会、産業、会社はどうあるべきかという見解を示していた。だが、こうした考え方はこれまで日本企業が大切にしてきた心構えでもある。今回キヤノンが「共生」というテーマで行ったプレゼンは、海外でも注目される考え方だと感じた。
コロナ禍をきっかけに、会社の在り方、働き方、利益の概念といったものが見直されてくるかもしれない。そうした場合、世界人類から必要とされるアプローチを取ってきた会社が「勝つ」というより、「選ばれる」存在になるのではないか。今回はそうした変化を垣間見ることができたCESだった。
(2021/2/24 05:00)