社説/21年版通商白書 有志国連携から自由貿易広げよ

(2021/6/30 05:00)

自由貿易の拡大を展望することが、日本の通商政策のあるべき姿だ。

2021年版通商白書の最大の問題意識は「自由貿易のあり方をアップグレードしていく」(経済産業省幹部)点にある。

世界経済は、新型コロナウイルス感染症による危機から回復を見せている。ただ国ごとの速度には大きな差があり、特に途上国では今後の感染拡大が大きな足かせとなる。

一方、コロナ禍で世界各国は国内の格差是正と雇用維持、経済成長に向けて政府が資金を大幅に増やす「大きな政府」が主流になった。サプライチェーンを強靱(きょうじん)化するとともに重要技術・産業を囲い込む「経済安全保障」も定着しており、白書ではこれを「有志国連携」という言葉で表現した。

さらに環境問題や人権などの「共通価値」への関心の高まりも、主要国同士の経済連携に大きく影響している。

これらの分析からは、戦後日本の輸出振興を支えた自由貿易体制が衰退しつつあることが分かる。各国は価値観を共有する国・地域と連携し、自国優位の確保を図ろうとしている。直近の課題としては半導体不足への対応があげられよう。

しかし、これが第2次世界大戦前のようなブロック経済への回帰であってはならない。世界経済を見渡せば、いち早くコロナ禍から立ち直った中国が高い成長を持続する一方、米中の対立が常態化した。米国は人権問題を背景に欧州と接近している。これが事実上の中国包囲網になれば、アジア経済に軸足を置く日本の通商政策は困難なかじ取りを迫られよう。

目下の課題解決のために、有志国連携は有効な戦術だ。しかし偏りすぎてはいけない。白書が自由貿易のアップグレードを訴える姿勢は正しい。

残念ながら世界貿易機関(WTO)は機能不全状態にある。今後の改革を日本も支援したい。さらに日本の通商戦略の最大の武器である環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)を活用し、加盟国拡大と自由貿易の進化を模索してほしい。

(2021/6/30 05:00)

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