(2021/10/20 05:00)
経済活動に必要不可欠な半導体の生産を、もう一度国内に根付かせられるのか。巨額の国費を投じる成果に期待したい。
半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、日本に半導体新工場を建設する。総投資額は約1兆円に上る可能性があり、日本政府が補助金でその半額程度を支援する方針。
海外企業にこれだけの補助金を投じるのは過去に例がない。ただ、半導体を巡っては世界で熾烈(しれつ)な調達競争が繰り広げられ、欧米や中国政府も自国への工場の誘致へ、日本を上回る拠出を行う方針を示している。
経済産業省は6月に「半導体戦略」をまとめ、経済安全保障の観点から、先端半導体工場の国内立地の必要性を訴えてきた。TSMCが米国や中国に次いで日本に拠点設置を決めたのは、水面下の交渉の成果だ。
問題はこの大型投資を日本の先端半導体製造拠点の定着につなげられるかだ。
新工場は熊本県菊陽町にあるソニーグループのイメージセンサー工場近くに建てる計画。回路線幅は20ナノメートル台(ナノは10億分の1)で、イメージセンサーや自動車向けのロジック半導体を主に生産するという。
足元の半導体供給は逼迫(ひっぱく)しているが、数年後には需給が緩む可能性もある。ユーザーが安価を求めて海外調達に走れば、新工場の操業にも影響が及ぶ。
半導体は数年ごとに大型の投資が必要で、そのたびに国費投入で対応するわけにはいくまい。TSMCが追加投資に踏み切る合理的な価値が必要だ。
幸い日本には、世界トップの技術力を持つ半導体製造装置・素材メーカー、さらに自動車などの有力なユーザーがいる。
これらがTSMCと連携し、自動運転や第6世代通信(6G)などの先端分野での利用を想定した半導体の開発、製造、利用を進める好循環を形成するのが望ましい。さらに好事例を参考に、国内半導体メーカーも新規投資に踏み切る環境を形成できれば、日本の半導体産業の再興につながり、国費を投じる意義も見いだせる。
(2021/10/20 05:00)
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