産業春秋／新しい資本主義

「コーポレート・ガバナンスは整備されてきたけれど、これで企業のパフォーマンスが上がるのか」。日本取締役協会（東京都港区）会長でオリックスシニア・チェアマンの宮内義彦さんは、そんな疑問を感じているという。

今の仕組みは「経営者を奮い立たせるようになっていない」。企業統治がしっかりしているほど「最高経営責任者（ＣＥＯ）が何もしなくてもいい会社になってしまう」。

同協会副会長の冨山和彦さんは、より手厳しい。「米国は企業活動の自由とイノベーションで日本を突き放している。ただ（成功例である）“ＧＡＦＡ”は高度知識人材に富を集中して中間層を生まない」。その修正として分配の議論が台頭したが「日本はそこまでも行っていない」。

岸田文雄政権の「新しい資本主義」は分配重視。しかし「分配が先行すれば収入は減る。欧米企業はパフォーマンスを落とさずに環境や人権に配慮した経営を求めている」と冨山さんは強調する。

所得倍増や分厚い中間層。昭和の日本的経営への回帰を思わせる言葉も一部で聞かれる。だが時計の針は戻せない。「新しい資本主義」は経営者にとって、より「厳しい資本主義」なのだと自覚したい。