(2022/2/7 05:00)
「投資育成会社」をご存じだろうか。経済産業省の監督下で中堅・中小企業へ長期安定的に出資し、資本政策を支援する公的な政策実施機関だ。1963年に設立された。全国に東京、名古屋、大阪の三つの投資育成会社が存在し、中堅・中小企業の株主となることで、企業成長や経営承継を後押ししている。
中でも「大阪中小企業投資育成」の営業エリアは、福井県以西の関西、中四国、九州、沖縄と広く、現在の出資先企業は約1,200社にのぼる。中小企業の経営承継は創業の歴史や事業環境が異なるため、各社の実情に沿う形で支援する必要がある。投資育成は広範な地域の長年にわたる出資経験を生かし、“中小企業の資本政策専門家”として経営者に寄り添った支援に力を入れる。
出資を受ける企業の目的は、スムーズな経営承継や経営権の安定化、対外信用力の向上などさまざまだ。経営者の悩みには、「後継者が決まらず承継がなかなか進まない」、「株式が分散していて不安がある」、「ガバナンスを強化し、信用力向上につなげたいが、良い方法がわからない」というような事例があげられる。
長期安定株主として経営をサポート
経営承継に悩んだり経営のレベルアップを考えるとき、金融機関や税理士などと同様に、投資育成を相談先に選ぶ中小企業が増えている。近年の出資傾向や投資育成の業務内容について、事業ソリューション部の小松茂部長に話を聞いた。
―近年の相談傾向を教えてください。
「株主構成の重要性がこれまで以上にクローズアップされている。株式が分散し、経営者の持ち株比率が低いと、経営の意思決定に支障をきたしたり、株主数が多いと株主対応が負担になったりする。投資育成の利用によって株主構成を安定させ、本来の経営に集中することができる。さらにガバナンスや信用力強化の一環として公的な第三者株主である投資育成を導入していただくケースも増えている。何かのきっかけで自社の株主構成を再点検し、投資育成に相談をいただく企業は多い」
―同族企業から非同族である役員・従業員への事業承継の事例も増えているようですね。
「親族内に経営を任せられる後継者がいない場合は、非同族の役員・従業員が新たな社長候補になる。しかしサラリーマン社長が創業者のようにたくさんの株式を持つのは資金的に難しいことが多い。そこに投資育成の出番がある。投資育成がまとまった株式を引き受けることで、非同族の次世代経営陣が力を合わせて安定的に経営できる体制が整備される」
―中小企業の経営者はどのような経路で投資育成へ相談するのでしょうか。
「ホームページを見て直接、問い合わせをいただくほか、当社の営業担当者からも企業にアプローチしている。すでにお付き合いのある出資先企業からの紹介も多い。さらに顧問税理士や地元の金融機関などを通じてご相談いただくケースも増えている。『経営干渉しない長期安定株主』という投資育成の機能を活用し、紹介元の顧問税理士や金融機関などと協力してその会社に最適なプランづくりを進める。ご相談いただいた企業ごとに強みと経営課題を認識し、出資後はさまざまなメニューを通じて課題解決をお手伝いする」
―その一つとして「経営の健康診断サービス」を始めました。
「希望する出資先に中小企業診断士などの専門家を派遣し、会社の経営課題を診断して、改善の方向性を経営者と共有する踏み込んだサービスを新たに始めた。本サービスでは現地訪問など2カ月程度の期間と工数をかけて専門家がリポートを作成し、提出する。2020年にスタートし、これまでに約20社を支援した。ご利用になった企業からは『課題が明確になり、取り組もうとしている経営改革の背中を押してもらうリポートを得られた』との評価をいただいている」
―2022年に大阪府立大学と大阪市立大学が統合して開学する「大阪公立大学」との連携も視野に入れています。
「出資先とお話しする中で、技術革新への危機感を持っている企業が多いということがわかった。解決策の一つとして大学の知見活用があるが、敷居が高いと感じたり、大学にどのような知見があるか分からなかったりして取り組めていない。そこで投資育成が橋渡し役となり、中小企業が大学と気軽につながるサポートができないかと考え、大阪府立大学との連携協定を結んだ。すでに何件かおつなぎし、大学側とのミーティングも始まっている。中小企業の技術的課題の解決や新技術の用途開発などへ向け、大学との接点を作るところから始めたい」
身内のように安心して相談を
株主として第三者機関を迎え入れることのへの抵抗感から、投資育成への相談をためらう経営者もいるが、小松部長は「身内のように安心して相談してもらいたい」と話す。経営承継の支援経験が豊富な公的機関として、金融機関や専門家と同様に、投資育成を相談先の一つに加えてもらいたい考えだ。
例えば近年の事例では、倉庫業者の第二創業を支援した。父親から事業を引き継いだ新社長が新たにEC支援事業に注力する中で、投資育成の出資を受けることで信用力を高め、顧客開拓につなげている。また、投資育成が有する大学とのネットワークを生かし、外国人従業員を受け入れるための教育プログラムも整え、人材育成にも力を入れているという。
ほかにも、産業機材のリユース事業を手がける企業の経営者が、自身の息子ではなく社員に社長を譲る「非同族承継」に伴い、投資育成を活用した事例もあった。同社は投資育成の出資後に、経営課題の点検として「経営の健康診断サービス」を受けた。この結果、原価管理や在庫管理に改善余地があることに気づきを得た。収益性向上への取り組みに着手すると同時に、投資育成から追加出資を受け、非同族承継に最適な株主構成に向けて段階的に整備を進めている。
「同族内に後継者がいなければM&A(合併・買収)で会社を売却するしかないと思い込んでいる経営者も多いが、同族承継とM&Aの“中間”の選択肢として投資育成を活用しながら非同族の役員・従業員に経営を委ねる選択肢もある。会社の歴史を存続させ、地元に企業を残すことにもつながる」と小松部長。
同族承継、非同族承継を問わず、経営権安定化によるスムーズな経営承継を実現し、成長支援実績も豊富な投資育成の活用を検討してはいかがだろうか。
(大阪支社編集局・大川藍)
(2022/2/7 05:00)