(2022/2/10 05:00)
ESG(環境・社会・企業統治)投資は、脱炭素化社会構築に向けた強力なドライバー(原動力)である。ではESG投資とはいったい何だろうか。ESG投資が隆盛になっているというが、どの程度の規模なのか。また、ESG投資が脱炭素社会にどのように影響するのか。このような諸点に加え、その投資対象となる企業の立場で見た対処方法などについて概説する。
IHSマークイットジャパン プリンシパル・アドバイザー ESG&ガバナンス担当 田原 一彦
ESG投資規模拡大
ESGは、アナン国連事務総長(当時)の提唱で2006年に始まった国連責任投資原則(PRI)で使われたことをきっかけに、一般化した。
PRIは投資家に対して、投資分析や意思決定にESG要素を考慮することを求めるイニシアチブである。つまり元来、ESGは「投資」と密接につながった言葉といえる。ESG投資は、銀行ローンなどを含めたサステナブルファイナンス(持続可能な社会実現を目指す金融)の一環として、サステナブル投資などと呼ばれることもある。
ではESG投資は実際、どの程度の規模なのだろうか。日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が実施した、国内機関投資家などを対象にした「サステナブル投資残高アンケート2021調査結果」(表1)によれば、21年3月末で投資合計額は500兆円を超え、総運用資産に占める割合も60%以上に達している。
さまざまな運用手法と投資規模
一口にサステナブル投資とかESG投資といっても、さまざまな手法がある。JSIFの調査による手法別内訳は表2の通りである。
ESG投資と聞けば、例えば気候変動など特定のテーマに沿って銘柄選択をする「テーマ型投資」を思い浮かべる人も多いかもしれないが、表2で分かる通り、これは必ずしも主流の手法ではない。また、ESG評価の高い銘柄だけに投資するイメージを持たれるかもしれないが、これは手法としてはポジティブ・スクリーニングとなるため主流ではない。
最も多いのはESGインテグレーション(統合)、すなわちESG要素を財務分析に体系的かつ明示的に組み込む手法である。また、投資先企業とのエンゲージメント(建設的な対話)や議決権行使を通じて、望ましい状況の実現を目指す手法(アクティブ・オーナーシップとも呼ばれる)も大きなウエートを占めている。
問題のある企業を投資対象から外すネガティブ・スクリーニングも大きいが、これは例えば武器製造企業など特定の限られた企業を投資対象外とする場合が少なくない。
このような結果になる要因は、ESG投資もあくまで資産運用であり、投資パフォーマンス(運用成果)の追求が第一義であることである。環境・社会に対するポジティブな影響を追求するインパクト投資でさえも、投資パフォーマンスが二義的になるわけではない。
運用の現場では、投資対象がむやみに制限されると運用の自由度が奪われ、投資パフォーマンス追求の観点からは必ずしも好ましくないのである。
欧州の政府系ファンドなどを中心に、例えば温室効果ガス(GHG)排出量が多い企業を投資対象から外す、いわゆるダイベストメントに乗り出す運用機関も徐々に増えている。しかし先に述べた理由から、この流れが一挙に加速するとは考えづらい。
ビジネス戦略―情報開示と対話が重要
将来的(例えば50年)に、ポートフォリオ(運用資産構成)の実質ゼロ・エミッションを目指すと宣言する機関投資家も増えている。とはいえ投資家はまず、投資先企業とのエンゲージメントにより、GHG排出量削減を求めていくとしており、すぐにダイベストメントにつながるわけではない。
しかし度重なるエンゲージメントによっても動かない企業は、将来的に投資除外対象となる可能性は高い。
ESG投資家が企業にまず求めることは、情報開示である。企業にとって開示の前に必要なことは、実態把握であろう。脱炭素の観点でいえば、GHG排出量の少なくとも事業者自らの排出量(スコープ1・2)、さらにできるだけ早くサプライチェーン全体の排出量(スコープ3)まで把握し、開示することが肝要である。
その上で実態把握の後に、どのように対処するのか検討し、ビジネス戦略に組み込むことが求められる。また事業内容にもよるが、脱炭素化社会への動きをビジネスチャンスと捉え、自社がこれにどのように貢献できるのか検討し、これもビジネス戦略に取り入れていくべきである。
まだ間に合うが、時間に猶予はない。その継続的な成功のためには、企業は迅速に、ESG課題を最優先にして動きだすことが重要である。
(2022/2/10 05:00)