東芝が挑む超電導技術の実用化【PR】

(2023/10/4 00:00)

 「超電導」と聞くと難しい技術の話と思われがちだが、実は医療の現場や産業用途など、私たちの営みの身近なところですでに実用化されている。東芝は超電導の技術応用が本格的に検討されはじめたおよそ50年前から、研究開発と実用化に取り組む。世界で進むカーボンニュートラル(CN)の流れの中で、超電導技術の応用はますます重要になっている。東芝の超電導技術の実用化への挑みとともに、次の応用へのヒントをひもといてみよう。

  • 東芝エネルギーシステムズ株式会社 パワーシステム事業部 シニアフェロー 来栖 努氏

―そもそも超電導とはどのような技術なのでしょうか。

来栖

超電導は、特定の金属や化合物などをその物質固有の温度以下まで冷やした時に、「電気抵抗がゼロ」になる現象のことです。複数の超電導材料が実用化されています。また、より高い温度で使える「高温超電導材料」の実用化に向けた研究開発も進んでいます。超電導材料をワイヤ状にして巻き、コイル形状の電磁石としたものが「超電導磁石」です。電気抵抗がゼロのため、通常の銅線の電磁石や永久磁石では得られない強い磁場を、広い空間で発生させられます。

下之園

「電気抵抗がゼロ」という状態というのはなかなか想像がつかないと思いますが、例えば普段私たちが使用している電気も、発電所から家庭のコンセントまでの送電時に電気抵抗があり発熱してしまうので、その分の電力が損なわれます。一般的に、発電所から送る電力のうち数%が失われると言われます。ところが一部で実用化されている超電導ケーブルだと、電気抵抗が一切なく、電気を効率よく送れるのです。

―具体的な応用先はどういったものがあるのでしょう。

来栖

先の超電導ケーブルのほか、身近なところでは、強磁場を発生できることを生かして、磁気共鳴断層撮影装置(MRI)で応用され、身体内の様子を鮮明に映像化しています。医療分野ではほかにも、重粒子をがん組織へピンポイントでぶつける「重粒子線がん治療装置」などへも導入され、正常な細胞へのダメージを抑えながら、がん腫瘍を破壊することに貢献しています。産業用途では、半導体の製造プロセスで使われる単結晶シリコンウエハー引き上げ装置に組み込まれている磁石装置や、電磁波を照射して化合物の構造を調べる核磁気共鳴(NMR)装置として応用されています。CO2を排出しないエネルギーとして注目される核融合発電では、日米欧などが参画する核融合実験炉「ITER」計画において、超高温のプラズマを閉じ込めるための磁場発生に使われています。

さらには、超電導リニアなどの磁気浮上式鉄道や、CO2を排出せずに航空機を飛ばすための超電導モーターなど、モビリティー分野への応用でも開発が進んでいます。

東芝の開発した軽量小型・高出力の超電導モーターは、22年のCEATECに出展され、世界初の事例として大きな話題を呼んだ。

  • 東芝エネルギーシステムズ株式会社 京浜事業所 原子力機器装置部 フェロー 下之園 勉氏

―超電導技術における東芝の強みはなんでしょうか。

下之園

強い磁場を発生させるために、コイルを巻いて、冷やして電気を流したら終わりかというと、そうではありません。実は強い磁場でコイル自身が破壊され、機能しなくなることがあるのです。東芝にはコイルを樹脂で固めたり、動かないように固定する独自の技術があり、それが我々の積み重ねであり、強みの一つだと言えます。

 また我々のコイル製造技術は、発電機用のコイルなど、約100年の歴史と実績があり、その中心となる京浜事業所(横浜市鶴見区)が紡いできたモノづくりの技術が生きています。作っているモノは違いますが、同じ工場内の技術者どうしがノウハウを共有したり、そこからヒントを得てさらなる開発を進めたりして、技術力を高めてきました。

 もう一つ言えば、冷やすこともまた難しい技術です。超電導というと、4ケルビン(マイナス269. 15℃)程度まで冷やさないと実現できません。その冷やす技術も、他社にはなかなか真似できないノウハウがあると言えます。

 容器に液体ヘリウムを入れて冷やす際に、ヘリウムが蒸発しないように魔法瓶のように真空容器にする製造技術や、外から熱を入れないようにする断熱技術などに我々のモノづくりの歴史が貢献しています。さらに近年では液体ヘリウムを使わずに、冷凍機によって4ケルビンまで超電導コイルを直接冷やす技術を世界に先駆けて生み出しています。これらの技術が、他社の追随を許さない東芝の強みだと考えています。

―改めて東芝の超電導50年の歩みについて教えてください。

来栖

核融合用の超電導コイルに関する開発と、超電導リニア用の超電導磁石の開発の2つの大きな取り組みがきっかけとなり、東芝の超電導技術の基盤ができました。その後、1990年代後半くらいから、我々の製品の主力である単結晶シリコンウエハー引き上げ装置用超電導磁石を世界に先駆けて製品化しています。

 高温超電導の応用では、2000年代から2010年代にかけて、ビスマス系と呼ばれる素材を使う第1世代の高温超電導の研究開発が世界中で加速しました。東芝は、高温超電導の単結晶シリコンウエハー引き上げ装置用超電導磁石を世界で初めて試作しました。当時の世界最大の高温超電導磁石です。

 また同時期に、東海旅客鉄道(株)と共同で、超電導リニア用の高温超電導磁石を開発しました。実際に山梨の実験線での走行試験に成功しています。そして、これらの技術をすべて結集することで、その後の東京大学との高温超電導の物理実験の成功につながりました。電源と冷凍機を切り離しても空中に浮上し続ける状態を保ち、プラズマを生成させることができました。これらの取り組みが東芝の高温超電導技術の礎になっています。

 現在では、第2世代と呼ばれる高価な材料を含まない高温超電導の研究が進んでいます。

  •    東京大学との物理実験で生成されたプラズマの様子(提供:東京大学)

東芝では、「技術のダイバーシティー(多様性)」を掲げているが、超電導の分野でも、コイルを巻く技術や冷やす技術などには100年以上にわたるモノづくりの歴史と伝統が生かされ、他社に追随されない要因となっている。

―超電導の技術は、これからどのように発展するでしょうか。

来栖

日本は現在、CNを目指して水素社会の実現に向けて官民一体となって取り組んでいます。水素を輸入する際の選択肢の一つとして、LNG(液化天然ガス)と同様に、液体で輸送することが検討されています。今は、液体をガスにして使用する際、海水などで温めて、冷熱を捨てているケースが多いですが、実はこの捨てている冷熱と高温超電導の相性は非常に良いのです。

 東芝が旗振り役になり、産学界の有志で産業競争力懇親会(COCN)プロジェクトを立ち上げ、水素と超電導によるCNにつながる複合産業体の実現を目指した活動をしています。

 水素ガスタービンの発電機を高温超電導でつくり、液体水素の冷熱は高温超電導発電機の冷媒として使用してから、その後にタービンの燃料として使うような発電システムを、再エネ電源の広域連系に使用することでCNに大きく貢献すると考えています。

 つまり、発電機の電気抵抗をゼロにすることで、送電ケーブルの容量増強と同様の効果が期待できて、大量の再エネ電源を安定的に使えるようになるのです。

 今後は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とも連携・協力しながら、超電導の一つのベネフィットとしてCNに貢献できる、という事を提案していきたいです。

下之園

超電導を世界に先駆けて製品化してきた東芝に、現時点でもアドバンテージがあると思います。モノづくりをさらに強化し、2050年にはトップメーカーとして、世界の中で「超電導は東芝」といわれるようにリードしていきたいです。

CNの実現に向け、改めて注目を集める超電導技術。この技術を世界に先駆けて製品に落とし込んできたパイオニアとして、東芝への期待は大きい。2050年に向けて、どのような技術が花開き、世に出るのか、東芝のこれからに注目していきたい。

  • 超電導で拓くカーボンニュートラル社会

東芝エネルギーシステムズ株式会社

https://www.global.toshiba/jp/company/energy.html

(2023/10/4 00:00)

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