宇宙放射線への電子機器の耐性を評価 東北大学など3者、一貫サービス提供

(2023/10/20 12:00)

ワンストップ放射線照射試験サービス 「学」が準備 「産」が実験

  • 中性子ビームを照射する装置(東北大提供)

宇宙から降り注ぐ宇宙放射線に対する電子機器の耐性を確認できる「ワンストップ放射線照射試験サービス」が〝産学連携〟で始まった。手を組むのは東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(CYRIC)、光エンジニアリングサービス(HES、仙台市青葉区)、SEESE(茨城県つくば市)の3者。2023年7月からCYRIC試験設備のウェブ予約から解析評価支援まで一貫したサービス提供に踏み出した。

東北大CYRICは、荷電粒子を磁場と電場の力で加速する装置(サイクロトロン)の多目的利用・研究、放射線とラジオアイソトープ(RI)の安全取り扱いなどの全学的な教育・訓練を実施する目的から1977年に設立された学内共同研究施設。加速器などの各種設備は、年間の稼働スケジュールが決められており、空いている時間は外部の利用もできる。今回のワンストップ放射線照射試験サービスは、設備の稼働を高める狙いもある。

「宇宙産業の進展に貢献していきたい」。東北大CYRICの渡部浩司センター長は新たな産学連携にこう意欲を示す。宇宙から降り注ぐ放射線は、人工衛星やロケットをはじめ先端半導体を搭載した地上の電子機器に対しても影響を与える。放射線照射試験は、宇宙放射線に対する電子機器の耐性を確認するために必要不可欠な工程になるという。これまでCYRICでは、半導体メーカーとの学内共同研究などで耐性試験の実施方法、評価などで知見やノウハウを蓄積してきた。

  • CYRICの設備(930型AVFサイクロトロン=東北大提供)

今回の新サービスは、東北大CYRICと放射光関連業務対応企業のHESが約3年前に連携を始めたのがきっかけ。同社は航空宇宙分野で実績を持つ関係者らが19年に設立した。分析評価技術を主力事業としているHESがCYRICの設備を使い実際の耐性試験に取り組む役目を担う。CYRICは、各種装置への試料のセッティングなど、主に実験の準備段階を手がける。時間を要する実験を「産」が取り組むことで、研究者が一段と研究に打ち込める環境づくりにもつながる。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)とのつながりも持つHES。同社のネットワークを通じて、JAXA発ベンチャーのSEESEと結びついた。SEESEの参画により、ウェブプラットフォーム上で、試験の計画、試験実施支援、評価解析などを一元管理。随時予約可能な受け付け環境とともに顧客が効率的に放射線照射試験を実施できる体制を整えた。新サービスの浸透はこれからが本番と見る。HESの新野正之社長は「3者連合で実績を積み重ねていく」と話す。

宇宙開発分野では、今後新規の参入者が見込まれており、耐放射線の検証が盛り込まれた特注品以外の民生品の需要も高まりつつある。地上では、宇宙放射線(主に中性子線)による電子機器の故障などの増加が懸念されている。放射線照射施設の需要は一段と高まってきており、東北大CYRICでは「新たな産業づくりにもつなげていきたい」(渡部センター長)としている。

(2023/10/20 12:00)

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