(2023/10/20 12:00)
世の中の人は才能があったり偉くなったりすると、うぬぼれて他人を見下したり調子に乗りがちだ。「天狗(てんぐ)になる」という表現が使われるが、そうなったところで自分の人生が良い方向に進むとは限らず、誤った道を選択してしまう場合が多い。中島敦著『山月記』は、天狗になった主人公が哀れな結末を迎える様子が分かりやすく描かれている。高校生の時に初めて読んで以来、自分の立場によらず謙虚な態度を心がけている。
『山月記』は自身の才能にほれ込んだ主人公が有名な詩人になろうとしたが、夢破れてトラになる話。才能の高さから努力することを放棄して社会から孤立し、以前見下していた同僚が出世している姿が書かれている。この本を初めて手にした時から30年以上がたつが、将来の自分のあり方を示してくれた一冊として今でも心に残っている。
数学科の教員として、代数学や幾何学、微分積分学などを教えている。高専では5年間で大学卒業レベルの工学系の専門知識が得られるよう授業が詰め込まれ、多くの実習を通じて技術力の高い人材を育てる。数学は一般教養であるものの専門科目の基礎となるため低学年から授業数が多く、学年が上がると大学レベルの高度な内容がカリキュラムに盛り込まれる。
だが専門分野の勉強や実習に追われる中で、一般教養の勉強がないがしろになってしまう学生は少なくない。そのような状況の中で学生がつまずかずに理解できるよう準備するのはもちろん、時には冗談を言って場を和ませながら授業を進めている。教員だからといって上から目線で自分の持つ知識をひけらかすような態度はとらず、自然と学生の立場で物事を考えられる姿勢を心がけられるのは『山月記』の影響が大きい。
天狗になるのは誰にでも起こり得ることだが、意外と自分では気付かない。同書はそれをうまく表現した物語であり、学生にも薦めたい。
(2023/10/20 12:00)
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