社説/米国の対中制裁関税 大統領選「保護主義」傾斜に懸念

(2024/5/16 05:00)

米政府は14日、中国から輸入する電気自動車(EV)や半導体などへの制裁関税を大幅に引き上げると発表した。中国政府の産業支援で過剰生産された安価な製品が世界に氾濫しているとして対抗策を講じる。不公正貿易への是正措置だが、米中貿易戦争の再燃が憂慮される。世界は二つの戦争に直面する。米中両大国には国際情勢の安定化を担う責務があり、その大国が争いを激化させる時ではない。

バイデン米大統領は通商法301条に基づき、中国製EVへの制裁関税を25%から100%へ、車載用電池も7・5%から25%に上げると表明した。関税率が最大7・5%の鉄鋼・アルミニウムも25%へ、レガシー半導体も2025年をめどに25%を50%とする。中国から輸入される180億ドル(約2・8兆円)相当の製品が対象だ。中国は報復を示唆しており、米中対立の一段の激化が憂慮される。

中国の過剰生産は是正されるべきだ。補助金を受けた廉価な中国製品は世界経済を混乱させる。ただ米国の保護主義にも問題がある。今回の制裁関税は11月の米大統領選も見据える。中国製品へ60%以上の制裁関税を検討するトランプ前大統領との保護主義“合戦”に映る。貿易摩擦は世界貿易機関(WTO)で解決するのが筋だ。バイデン大統領は全米鉄鋼労働組合(USW)に配慮し、日本製鉄のUSスチール買収にも否定的で、安易な保護主義は慎みたい。

米中は23年11月の首脳会談で対話の再開で合意し、緊張緩和へ一歩前進していた。ウクライナと中東情勢に追われる米国にとって、中国との関係悪化を回避した意義は大きく、中国も経済が停滞する中で米国との摩擦を望まない。今回の米国の制裁関税により、米中関係が首脳会談前に戻らないか懸念される。

米国はイスラエル、中国はロシアと関係が深い。米中は二つの戦争の停戦に向けた役割こそ優先して担いたい。台湾新総統の就任式が20日に控える。中国の台湾への威圧が強まることも想定される。米中は対話を継続し、三つ目の地政学リスクを緩和する外交に努めてほしい。

(2024/5/16 05:00)

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