社説/対日投資100兆円(上)円安を逆手に成長分野の誘致を

(2024/5/21 05:00)

円安と地政学リスクを逆手に取り、外国企業の対日(対内)直接投資を促したい。円安により工場や研究所の立地条件が改善しているほか、地政学リスクを緩和する拠点分散化の需要も期待できる。政府は2030年までに対日直接投資残高100兆円の目標を掲げ、22年の46兆円からの倍増を目指す。商機の拡大や雇用の創出、さらに生産性の向上につなげ、日本の産業競争力を一段と強化したい。

国際連合貿易開発会議(UNCTAD)の統計に愕然(がくぜん)とする。対日直投残高の国内総生産(GDP)比率で、日本は21年に5・2%。201カ国・地域のうち198位で、北朝鮮の5・9%より低い。22年に8・3%に上昇したが、さらに開かれた国へと対応を急ぎたい。

外資が日本のデータセンターを増強する計画が4月までに相次ぎ発表された。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、マイクロソフト、オラクルの3社が日本に計約4兆円を投じる。膨大な計算が必要な生成人工知能(AI)の普及に伴い、クラウドコンピューティングの需要が拡大している。対日投資の拡大は地政学リスクへの対応でもある。円安も追い風に対日投資に弾みを付けていきたい。

政府は大量の電力を使うデータセンターの新増設を見据え、24年度に策定する「第7次エネルギー基本計画」で脱炭素電源の拡充を検討する。AI向け半導体の製造にも多くの電力が必要で、外資誘致を進める上で受け入れ体制を早期に整えたい。

半導体は、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に2工場を建設し、第3工場の可能性も指摘される。経済安全保障に資するほか関連産業の集積や雇用創出など地域への波及効果も大きい。政府は2工場に最大1・2兆円を補助する。財政制度等審議会は半導体関連への巨額の財政出動について、財源確保の議論を求める声もある。ただ日本は半導体産業再建のラストチャンスを迎え、成長分野へは積極的な予算措置が必要だ。予算編成のメリハリを付けることで「賢い支出」を実現し、誘致活動は積極的に取り組みたい。

(2024/5/21 05:00)

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