社説/金利のある世界 成長投資の加速と財政健全化を

(2024/5/29 05:00)

日銀が金融政策の正常化を進めるとの観測から、長期金利(新発10年物国債)の利回りが1%超に上昇している。日銀は7―9月にも追加利上げや国債購入の減額に動くとのエコノミストの見方が多く、金融機関による貸出金利の一段の引き上げが想定される。本格的な「金利のある世界」を見据え、企業に加え政府も、今から備えたい。

日銀は3月にマイナス金利政策を解除した。国内銀行は貸出金利の引き上げに動き、3月の貸出約定平均金利は0・803%と、前月比で0・12ポイント上昇。日銀が金融正常化を進めれば、貸出金利はさらに上昇する。

東京商工リサーチによると、1年前より借入金利が「すでに上昇している」企業は17・7%で、向こう半年の借入金利についてメーンバンクから「引き上げをはっきり伝えられた」「可能性を示唆された」企業は計30・8%を占める。中でも労務費などの価格転嫁が進まない中小企業の財務悪化が懸念される。

日銀は、上場企業の好決算や高水準の2024年春季労使交渉(春闘)などを受け、4月の金融政策決定会合では追加利上げや国債購入の減額に前向きな意見があった。13日には、長期金利の1回当たりの購入額を減らしており、国債残高を本格的に減らす布石のように映る。

日銀は月間6兆円規模の国債購入を続けている。エコノミストの間では、日銀は7―9月に追加利上げまたは国債購入減額を決めると予測する。米国の利下げは9月との見方が多く、日米金利差の縮小が円安是正につながると期待したい。実質賃金が年内に増加に転じれば、経済の好循環も回り始めるはずだ。

「金利のある世界」は企業に一段の収益構造の強化を迫る。企業は賃上げを継続しつつ、企業価値を向上させる成長投資を加速したい。家計は、預金金利の上昇は歓迎だが住宅ローンの負担が増すと留意したい。また財務省試算では、長期金利が想定より1%上昇すると、33年度の国債利払い費は8・7兆円も増える。政府は野放図な財政支出を戒め、持続可能な財政運営を目指す時期を迎えつつある。

(2024/5/29 05:00)

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