社説/公的年金の「財政検証」 一歩前進も一段の「制度改革」を

(2024/7/4 05:00)

厚生労働省は3日、公的年金の健全性を5年に1度のペースで点検する「財政検証」の結果を公表した。5年前と比べ、年金制度の持続性が一歩前進した結果が示された。この5年で女性・高齢者の労働参加が増え、年金積立金の運用も堅調に推移したためだ。厚労省は今回の検証に基づき、年末に年金制度改革案をまとめる。企業の負担増に目配りしつつ、踏み込んだ改革により年金をめぐる将来不安を緩和することが求められる。

「所得代替率」。現役世代の平均手取り額に対する年金支給額の比率のこと。少子高齢化に伴い、足元の61・2%を極力低下させないことが課題になる。

厚労省は、将来の人口推計や経済見通しなどに基づき四つのシナリオを示した。重視するのが実質成長率(2034年度以降、30年間の平均)1・1%の成長型と、マイナス0・1%のリスクシナリオの二つ。前者の所得代替率は基礎年金の調整が終わる37年度に57・6%、後者は57年度に50・4%と見通す。いずれも足元の61・2%からは悪化するが、5年前の19年検証では0―0・2%成長でも政府目標の50%を下回っていた。年金財政の健全性は前進したと言える。

ただ今回示した成長型シナリオの実現は容易ではない。高い成長率と十分な年金財源を確保するには、企業による積極的な成長投資、労働市場改革による女性の意欲的な労働参加などが欠かせない。改革を怠るリスクシナリオに陥れば、所得代替率が50%をわずかに上回る低水準にとどまることに留意したい。

公的年金制度改革は、厚生年金の適用拡大が焦点の一つになる。非正規など短時間労働者が加入する際の企業規模要件の撤廃などの案がある。老後の年金収入が手厚くなる一方、保険料を折半する企業、中でも中小企業の負担増が懸念され、政府は負担軽減策の議論を深めてほしい。国民年金の納付期間を64歳まで5年延長する案は見送られる方向で、今回の財政検証を踏まえたものと評価したい。働く高齢者の厚生年金を減らす「在職老齢年金」は見直し、労働人口の減少に配慮してほしい。

(2024/7/4 05:00)

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