(2024/8/9 13:00)
航空機や船舶などの移動体は、位置情報を得る手段として全地球測位システム(GPS)を代表とする衛星航法システムに依存している。一方で、移動のカタチの多様化に伴い、社会的な混乱につながるGPS信号への意図的な電波干渉問題が危惧される。中部大学の海老沼拓史教授は、GPS干渉信号を効果的に抑制する技術の実用化に挑んでいる。航法システムの信頼性を高め、移動体の安全な利用に貢献を目指す。
どこにいても、正確な位置情報を得ることができるGPS。航空、船舶、スポーツ、測量など多様な分野で利用が進んでいる。GPSへの依存が高まる半面で、増加傾向にあるのが位置情報を妨害するGPS干渉信号だ。
GPS干渉信号には、偽の電波を発信して位置情報を改ざんするスプーフィング(なりすまし)、GPS信号を妨害するジャミングが知られている。その脅威は今後、航空機の運航など事業活動の大きなリスク要因になると予想されている。
航空機や船舶以外にも飛行ロボット(ドローン)、自動運転など新しい移動方式が実用化段階に入り、海老沼教授は「移動体に搭載可能なGPS干渉信号抑制技術が必要とされている」と指摘する。
技術の軸に据えるのは、受信したい信号のみにアンテナの感度を向けるビームフォーミング。複数のアンテナ素子を融合し、アンテナに指向性を持たせる技術だ。Wi―Fi(ワイファイ)、第5世代通信(5G)でも活用されている。
ビームフォーミング技術を応用すれば、偽の電波を受信しない設定が可能。正確な位置情報の把握を通じて、航法システムの信頼性向上につながると期待する。汎用の民生品を活用するなど、安価なシステムとして実用化を目指す考えだ。
航空輸送などに技術革新をもたらす研究テーマと評価され、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが実施した公募型研究「JAXA航空技術イノベーションチャレンジ」にも採択された。研究開発はJAXAや大阪公立大学、長野工業高等専門学校、三菱プレシジョンと共同で取り組んだ。海老沼教授は主にハードウエア開発を担い、受信機の小型化に向けてプロトタイプを製作している。
これまでの研究で、干渉信号の効果的な抑制には6素子以上のアンテナによるビームフォーミングが望ましいことなどが分かってきた。引き続き「リアルタイム処理など、移動体でのビームフォーミングの有効性を確認していく」(海老沼教授)と研究を加速する。
マルチパス環境での実証は、その一つ。電波が地形やビルなどに反射し、複数の経路を通って波及する現象(マルチパス)を干渉波に見立てて抑制を車両走行試験で評価する。自律走行時の位置精度向上に役立ちそうだ。
自動車に搭載する場合、車両のデザインに関係してくるだけに、受信機は「より薄型、小型の開発が必要になる」(同)と見通す。移動体に搭載可能な技術としてブラッシュアップしていく。
(2024/8/9 13:00)
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