(2024/8/30 12:00)
宇宙ベンチャーには自社で地球観測衛星を開発して、事業に活用する企業が多くなっている。Synspective(シンスペクティブ、東京都江東区、新井元行最高経営責任者〈CEO〉)は、地表に向けて放った電波の反射波を調べる合成開口レーダー(SAR)衛星を開発・運用し、データの解析や販売を行っている。災害時にも迅速に対応できるといった特徴を持っており、さまざまな分野から同社の地球観測が注目されている。
シンスペクティブは内閣府の革新的研究開発プログラム「インパクト」の成果を社会実装すべく、2018年に設立した。同社の小型SAR衛星「StriX(ストリクス)」は、他社の同衛星と比べて観測幅が5倍以上で観測可能な面積は2―10倍、大電力で大容量のバッテリーを搭載しているため長期観測や多地点観測に適している。開発は続いており、従来機の重量の10分の1となる100キログラム級で、大型機と比べて開発と打ち上げ費用を合わせて約20分の1とすることが目標だ。小型化と多数機生産に適した設計をしており、宇宙開発経験が10―20年のベテラン技術者や航空機や自動車、家電製品の開発経験者を採用した開発体制を構築した。
こうした開発体制の強化の理由の一つとなっているのが、20年代後半にも30機の小型衛星を打ち上げて複数の衛星を地球の周囲に配置して活用する「衛星コンステレーション」の構築を目指していることだ。最近では8月に5機目となる衛星を打ち上げることに成功。今後はより定期的に打ち上げできるよう米ロケットラボと合意し、小型ロケット「エレクトロン」で25―27年にかけて10機の衛星を打ち上げることが決まった。シンスペクティブの新井CEOは「コンステ構築を加速してサービスの拡充のための基盤を得られた。事業を前進する重要な役割を担ってもらえることに感謝している」と述べた。
小型SAR衛星コンステを運用できれば、場所によらず災害発生後、数十分―1時間以内に観測データを取得・分析し情報を提供できるようになる。衛星に搭載するSARアンテナは、太陽を光源として地上を撮影する光学センサーとは異なり、夜間や悪天候でも観測できる特徴がある。時間や天候によらず人の立ち入りが困難な状況でも、宇宙からの観測であれば迅速に現場の状況を把握できる。
災害対策だけでなく資源利用の促進やインフラ開発の実現といった衛星データを活用できる分野は多く、事業拡大にも期待がかかる。シンスペクティブは6月に新たに70億円の資金を調達。新井CEOは「年内にも量産工場を稼働し、衛星コンステを利用した国際事業の展開の本格化を進めている。調達した資金でこれらの取り組みを加速したい」と意気込む。日本には衛星の開発や観測データの提供を事業とする宇宙ベンチャーは多く、他社との違いを生かした戦略が今後の事業展開に関わってくるだろう。
(2024/8/30 12:00)
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