(2024/11/15 05:00)
二つの「年収の壁」を見直せば、いわゆる「働き控え」が解消に向かい、労働参加が促されると期待される。ただ二つの壁はいずれもパートタイマーら短時間労働者が対象で、「壁」を気にせずに労働時間を増やせる環境に見直す内容だ。人材不足を補う労働力強化には小さな一歩に過ぎず、さらなる改革が欠かせない。三位一体の労働市場改革などを推進し、労働参加を強く促すことで、深刻化する人手不足を解消していきたい。
国民民主党の公約である「年収103万円の壁」の見直し。年収が103万円を超えると所得税が新たに発生するため、労働時間をあえて抑える「働き控え」のパートタイマーらが少なくない。壁を引き上げれば労働時間が増え、所得増に伴う消費喚起や、人材不足の緩和につながり得る。ただ、国民民主が求める「年収178万円の壁」となっても、「壁」は残る。短時間労働者による労働時間の延長にも、おのずと限界がある。
厚生労働省が撤廃を検討する「年収106万円の壁」。現在は、従業員51人以上の企業などで週20時間以上働き、年収が106万円以上になると配偶者の扶養から外れる。新たに厚生年金に加入し、保険料を支払う必要がある。こちらも「103万円の壁」と同様に、保険料負担を避けるため労働時間を抑える「働き控え」が少なくない。
壁が撤廃されれば年収によらず、週20時間以上働けば厚生年金への加入が必要になる。保険料負担が発生するが、老後に支給される年金が手厚くなる。将来不安が緩和されるため、労働参加が促される効果が期待される。ただ、どこまで強いインセンティブとなるかは不透明だ。
労働人口が少なく、人手不足の日本は、女性活躍などを推進しつつ、賃金面でも分厚い中間層を形成する必要がある。①リスキリング(学び直し)による能力向上②職務給の導入③成長分野への円滑な労働移転―の三位一体の労働市場改革を急ぎたい。「壁」の議論を契機に、労働参加と賃上げを同時進行させる施策を推進し、成長型経済への移行につなげていきたい。
(2024/11/15 05:00)
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