再生エネ、主力電源化を狙う

(2025/1/1 05:00)

温室ガス目標案、35年度60%減へ

2025年は再生可能エネルギーの主力電源化に向けたターニングポイントの年となる。24年末、気候変動政策の要となる温室効果ガス(GHG)排出削減の新しい目標案、さらに再生エネの最大限活用を掲げた第7次エネルギー基本計画案が出そろった。次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の量産と洋上風力発電の大規模プロジェクトも動き出し、再生エネ主力電源化へのエンジンが起動する。(編集委員・松木喬)

ペロブスカイト 太陽光普及、政府支援が不可欠

環境省と経済産業省による有識者の合同会合は24年末、35年度にGHG排出量を13年度比60%削減、40年度に同73%削減する目標案を示した。意見公募を経て正式決定すると、国内の気候変動政策はさらに高い次元に突入する。

新しい目標案が出たが、目前の目標である30年度の13年度比「46%減」達成の重要性は変わらない。22年度までは同22・9%減で進んでおり、46%減の確実な達成とともに、35年度目標にも布石を打つために25年が重要となる。

また、排出量を左右する第7次エネルギー基本計画案では、40年度の電源に占める再生エネ比率として4―5割を設定した。23年度の再生エネ比率は22・9%。さらに引き上げて再生エネを主力電力化するために、ペロブスカイト太陽電池と洋上風力発電が両輪となる。

  • ペロブスカイト太陽電池は積水化学工業が事業化を予定している

ペロブスカイト太陽電池は薄くて軽く、シリコン系太陽電池の重さに耐えられない屋根や壁面にも取り付けられる。政府は25年を量産開始の目標としており、積水化学工業が事業化予定だ。東芝やパナソニックホールディングスも開発を進めており、実用化が近い。新興のエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)も、トヨタ自動車系ファンドやINPEX、中国電力などから出資を受けて量産準備を整えている。

政府は40年に、ペロブスカイト太陽電池を原子力発電20基分に相当する2000万キロワット規模に普及させる目標も設定しており、期待が強い。

だが、課題もある。環境・経産省の合同会合の岩船由美子委員(東京大学生産技術研究所教授)は、現状の太陽光発電の導入ペースでは主力電源化は厳しいと指摘。「インセンティブ(優遇策)では導入が限界であり、いずれ設置義務化を検討しないといけない。それくらい難しいと認識しないといけない」と課題を突きつけた。太陽光発電の活用を促すだけでなく、政府による導入支援策が求められる。

洋上風力 計画続々、地方成長に追い風

  • 大規模プロジェクトが稼働・着工し、普及への加速が期待される洋上風力発電(長崎県五島市沖)

25年は、洋上風力発電の普及加速にも期待がかかる。25年度中に九電みらいエナジー(福岡市中央区)やJパワーなどのグループが、北九州市で洋上風力発電所の運転を始める。稼働する風車は25基、合計出力は22万キロワットと、国内最大の洋上風力発電所となる。

4月には、三井物産や大阪ガスなどのグループが新潟県の村上市と胎内市で洋上風力発電所を着工する。29年に稼働する風車は38基、合計出力は68万キロワットとなり、北九州の3倍規模だ。

現在、日本の洋上風力の総導入量は26万キロワット。英国の1300万キロワット、中国の3000万キロワットから大きく引き離されている。大規模発電所が稼働、着工すると、日本でも洋上風力の普及に勢いが出そうだ。

また、洋上風力は製造や建設工事による経済への恩恵も大きい。三井物産などは、38基の設置によって経済波及効果6508億円、雇用面で3万人以上の貢献があると試算している。各地で洋上風力発電の建設が計画されており、地方経済にも追い風だ。浅尾慶一郎環境相も「環境を良くすることは経済成長につながる。脱炭素と経済成長は両立し得る」と断言する。

経済効果 化石燃料輸入減、年15兆円

再生エネを主力電源化する経済メリットについて、さまざまな分析がされている。シンクタンクの地球環境戦略研究機関(IGES)が35年度の再生エネ比率を60%として試算したところ、化石燃料の輸入を年15兆円低減できると分析した。再生エネによる発電は化石燃料が不要なためだ。ボイラからヒートポンプへの転換、電気自動車(EV)の普及など「電化」による効果もある。日本は22年度、化石燃料の輸入に33兆円を支払っており、15兆円削減のメリットは大きい。

また、IGESが系統増強や蓄電池導入、水素製造装置といった再生エネ普及に必要な投資額も試算したところ、50年まで年3兆9000億―4兆6000億円だった。再生エネによる化石燃料削減額が設備投資額を上回る。

他にも、内閣府が地域における経済効果を分析している。例えば人口5000人弱の北海道上士幌町が地域内の全電力を再生エネにするには28億円の設備投資が必要だが、実現すると88億円の経済波及効果が生まれる。他の地域でも設備投資の2―4倍の経済効果があるという。

太陽光発電協会も試算している。50年度に現状の5倍以上となる4億キロワットの太陽光発電が導入されると、年6兆円の経済効果と51万人の雇用を誘発するという。太陽光パネルは9割を輸入に頼るため経済メリットが乏しいと指摘されるが、設置工事やメンテナンスは国内企業が担う。また導入量が増えるほど廃棄パネルのリサイクルが発生するため、国内経済に貢献する。

(2025/1/1 05:00)

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