[ オピニオン ]
(2016/3/11 05:00)
豊かな暮らしを支えてきた海が5年前のきょう、多くの命を奪った。モノづくり現場も激甚な被害を受けた。それでも地域経済の核となる工場の大半は、海辺の同じ場所で操業再開に動いた。
島国・日本のモノづくりにとって原材料や製品の輸送に海運が担う役割は大きい。重量ベースでみた貿易量の99・7%が船舶で運ばれる。沿岸部は埋め立てでまとまった敷地を確保しやすく、大規模な工業地帯が形成されている。臨海コンビナートでつくられた素材はサプライチェーンの上流を占める。モノづくりと海の関わりは深い。海辺に設けられた原子力発電所の安全対策も含め、津波への備えは産業界全体の問題だ。
東日本大震災は自然災害対策の認識を根本から揺るがした。日本防災産業会議会長を務める相澤益男科学技術振興機構顧問は、災害は完全には防げないと認めて被害を最小にする「減災」をコンセプトとし、被災しても柔軟に対応できる「レジリエンス(復元力)」を重視すべきだと提言する。
人命を守ることを大前提にした上で、モノづくり現場への地震や津波の影響をいかにして軽減するかを考る。それでも被害が出ることに備え、早期復旧できる手段を用意することが必要だ。
いま警戒しなければならない巨大災害の一つが南海トラフ地震だ。マグニチュード8クラスの地震は90年から150年ごとに繰り返し発生している。さらに発生頻度は極めて低いとされるものの、マグニチュード9クラスの巨大地震を想定した対策が国や自治体で進められている。
南海トラフ地震の津波到達まで数分という地域には多くの都市と工場地帯がある。いざという時には従業員の安全確保に精いっぱいで、設備被害にまで気を回すことは難しいだろう。
いつ起こるかわからない災害対策への投資には踏み切りにくい。ならば早期復旧できる体制づくりを現場の改善や平時の業務効率向上につながるようにできないか。多様な企業が優れた技術を持ち寄り、臨海部のモノづくりを持続可能にしてもらいたい。
(2016/3/11 05:00)