[ オピニオン ]
(2016/6/6 05:00)
中国の鉄鋼メーカーの余剰生産能力解消は、全世界の共通課題になっている。先進各国は一致して中国に圧力をかけていく方針。ただ関税制裁などの強硬措置は、日本の業界にとって逆効果になりかねない。
伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)の首脳宣言は、中国政府による「補助金等の支援を特定し、その排除を求める」と明記。これに加えて「広範な貿易政策上の措置及び行動を検討する用意がある」とけん制した。中国はこれに猛反発し、対抗措置も辞さない構えだ。
確かに中国メーカーは赤字を垂れ流しながら、安価な鋼材を大量に輸出している。このため世界の鉄鋼メーカーの業績は悪化し、工場閉鎖や大量の人員削減に追い込まれるケースもある。各国政府は国内の不満が募る中で、断固とした措置を取る必要に迫られている。
だが4億トンともいわれる中国の余剰能力解消は、一朝一夕では実現しない。業界筋によると目に見える効果が出るのに早くて2年。長ければ10年という。輸入国が関税などで対抗措置を取っても効果は期待しにくい。逆に通商摩擦の激化は日本にとってもマイナスとなる。
というのも日本の鉄鋼貿易の中で中国製品の輸入量は4月実績で14万トン。他地域を含めても輸入は63万トンだ。これに対し、日本からの輸出量は324万トンもある。特に日本の鉄鋼メーカーは海外展開を急いでおり、進出先の鋼材工場に大量の原板を輸出している。
通商摩擦が激しくなり、各国が輸入鋼材に高い関税をかけるとなると日本製品が巻き添えになる危険がある。そうなれば日本勢は海外の生産拠点での競争力を失ってしまうだろう。
鉄鋼の余剰で最も苦しんでいるのは中国自身だ。特に余剰人員の受け入れ先確保に悩んでいる。日本の鉄鋼業界は1970年代以降、長きにわたり合理化に取り組んできた。この経験を中国に伝えることで打開しようという試みも始まっている。
真に実のある対策が、問題解決への早道だ。中国への圧力にも工夫がほしい。
(2016/6/6 05:00)
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