[ オピニオン ]
(2016/6/8 05:00)
文部科学省は、数理科学を製造やサービスなどと融合させる大学の教育・研究の強化に着手する。新事業開拓の潜在力があり、政府の“第4次産業革命”の推進力のひとつとして注目したい。
数理科学は数学的な論理や定理証明を基に、現象を解明したり課題を解決したりする学問分野だ。数学のほか統計学、計算機科学、暗号科学、計量経済学などを含む。
文科省は4月に「第4次産業革命に向けた人材育成総合イニシアティブ」を公表。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などを先導する人材育成を打ち出した。小学校からのプログラミング教育や、理化学研究所のAIの新センターにおけるトップレベルの研究者育成と合わせ、大学の新施策を明らかにした。
その一つが数理科学と他分野の相乗効果。複数の大学を対象に「数理・情報教育研究センター」などの設置を後押しする。融合対象として想定するのは経営、医療、農業、公共政策など幅広い。学部・大学院の新設による人材育成も進める。
18世紀の産業革命以後、今日までの技術革新の大半は大量生産体制の確立をはじめとするモノの生産革命だった。これに対し「第4次産業革命はコト(サービスや概念)の生産革命で、概念を操作する理論は数学で表現するしかない」と電気通信大学の西野哲朗教授は説明する。
数学はすでにモノづくりの現場で高度利用が始まっている。数学の「逆問題」の手法を応用して鉄鋼の高炉内の温度変化を推測したり、数学モデルにより渋滞発生メカニズムを解明して物流やカーナビゲーションシステムの開発に生かしたりしている。数理科学は純粋数学よりもさらに応用寄りだけに、波及効果も期待しやすい。
課題はなんといっても人材の不足だ。同一年齢で数学を専門に学んだ人の割合をみると、日本は米国に比べて学部で7割、修士で5割、博士は3割にとどまる。数理科学の魅力が見直されて修了者が増え、社会がより豊かになることを期待する。
(2016/6/8 05:00)