[ オピニオン ]
(2016/7/4 05:00)
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さて、いま最も関心の高い話題は、何と言っても英国の欧州連合(EU)離脱でしょう。そこでまず目についたのは造語の妙。有名なのが「英国(Britain)」と「脱退(exit)」を掛け合わせた「ブレグジット(Brexit)」です。さらに一部では、「テックジット(Techxit)」という言葉も。金融以外に、EU離脱を前にして、人材採用や資金調達などの面からテクノロジー企業が英国から逃げ出す現象を言い表したもの。そして、ロンドンからのテックジット先として名前の挙がる最有力候補が、ドイツの首都ベルリンです。
ドイツに目を向けているのは何もテクノロジー企業に限らないでしょう。英国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)に率先して参加表明するなど、経済面で中国と強固な関係を築いてきました。ところが、ブルームバーグの報道によれば、EU離脱で中国は「英国という最良のパートナー」を失い、その結果、「中国は今後、ドイツとの関係に集中することになるだろう」(北京外国語大学の謝韜教授)との観測も出ています。
折しも、中国とドイツの間では、家電大手の美的集団(ミデアグループ)によるドイツの産業用ロボット大手、クカの買収交渉が大詰めを迎えています。美的は東芝の白物家電事業の売却先。メルケル首相はじめドイツ政府はエアバスやベンツ、BMWはじめ欧州の主要産業の生産設備を支え、インダストリー4.0の中核企業の一つでもあるクカが中国企業に買収されることを深く憂慮しています。ただ、法的に買収を防ぐ根拠もなければ、競合して買収に乗り出す欧州企業もなかなか出てきません。一方、クカのロイターCEOとしては、条件の良さから買収に前のめり。ロボット需要が急増する中国市場の開拓が進めやすくなるとの読みもあります。
6月に北京を訪れたメルケル首相は、この案件を念頭に「中国企業によるドイツ企業の買収に比べ、ドイツ企業による中国企業の買収が圧倒的に少ない」と中国側に「市場開放」を強く申し入れています。一見、両国の関係がぎくしゃくしているようにも見えますが、機を見るに敏な中国はドイツ向けに有利な条件を繰り出してくるかもしれません。英国のEU離脱が別の離脱を生み、中独の蜜月に-英国にとっては何とも皮肉な事態になりそうです。
(デジタル編集部長・藤元 正)
(2016/7/4 05:00)