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[ 科学技術・大学 ]
(2016/7/21 05:00)
慶応義塾大学医学部の岡野栄之教授らは、脳の層構造や大脳の「しわ」が正常に形成されずに表面が平滑になる先天的疾患「滑脳(かつのう)症」の病態について、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使って再現した。滑脳症患者の体細胞からiPS細胞を作製。同iPS細胞から分化させた神経細胞を観察した。その結果、重症患者由来の神経細胞で、細胞周囲に発生する神経突起が長く伸びない障害が現れた。
脳の形態異常を試験管で再現できたことによって、滑脳症を含む先天的な脳形成疾患の病態解明や治療法開発につながる可能性がある。
大脳の形成過程では、神経細胞の移動に伴い大脳が拡大して「しわ」が生まれ、層構造も作られると考えられている。神経細胞から伸びる神経突起は脳のさまざまな部分とつながり、脳内の情報網を形成している。
滑脳症は約10万人に1人の割合で発症し、複数の原因遺伝子が報告されている。研究チームは原因遺伝子の一つ「TUBA1A」に着目。同遺伝子に変異を持つ日本人の滑脳症患者2人の臍帯(さいたい)組織や血液中のリンパ球からiPS細胞を作った。
同iPS細胞から神経細胞の基となる「神経前駆細胞」を作製。同前駆細胞と、神経細胞への分化を促す作用のあるヒトグリア細胞株を混合し、神経細胞を作った。2人の患者のうち、左右の脳をつなぐ「脳梁」が欠損した重症患者由来の神経細胞で、神経突起の伸びに異常が現れた。
国立病院機構大阪医療センターなどとの共同研究。成果は20日、英科学誌モレキュラー・ブレイン電子版に掲載された。
(2016/7/21 05:00)