[ オピニオン ]
(2016/7/28 05:00)
鉄鋼業界で、海外進出先での混乱が相次いでいる。日本勢の海外展開は今後も加速が予想されるが、そのためにはリスクに対する備えを見直す必要がありそうだ。
新日鉄住金は、持ち分法適用会社であるブラジルの鉄鋼大手・ウジミナスの経営立て直しをめぐり、他の大株主との対立の長期化に苦しんでいる。またJFEスチールは出資するベトナムの製鉄所が廃液による海洋汚染を引き起こし、罰金を科される事態となった。
自動車をはじめ電機、精密、一般機械など組み立て型産業の多くは、すでに海外で一貫生産を実現している。これからは鉄鋼や石油、化学など装置型の重厚長大産業も本格的な海外展開を迫られよう。鉄鋼業界はこれまで下工程を中心に現地化を進めてきた。海外の有力企業をパートナーに合弁で鋼材等の加工工場を設置。日本から高品質の母材を輸出し、これを現地で加工して客先に納める方式だ。
今後は高炉のような上工程も海外展開を増やす必要がある。母材の輸出は輸送費がかかる上、輸送中の品質保持にも配慮がいる。また近年、中国の安価な鋼材が世界の鉄鋼市況に打撃を与えたことから鉄鋼分野の貿易摩擦が激化。各国が高い関税を課すようになり、日本の輸出品も巻き添えを食っている。
新日鉄住金にとってのウジミナスは、上工程を持つ南米の拠点。またJFEスチールにとっても、ベトナムの製鉄所は東南アジアにおける重要な上工程にあたる。両社とも海外ビジネスには豊富な経験を持っているはずだが、それでもパートナーとの摩擦や相手側の不手際で、思わぬ困難に見舞われることを避けられなかった。
中国などで共同事業のパートナーに恵まれず、撤退を余儀なくされた事例は他業界にも数多い。それでも人口減少によって内需の縮小を迫られる日本の企業は、リスクをはかりながら勝負を挑み続けなければならない。鉄鋼業界に限らず、失敗の教訓を共有することで、リスクを最小限に抑える知恵と経験を蓄積していきたい。
(2016/7/28 05:00)