[ オピニオン ]
(2016/7/27 05:00)
介護ベッドや電動車いすなど福祉用具による高齢者の製品事故が後を絶たない。経済産業省によると、2010年度から14年度までの5年間で合計147件の事故が発生した。高齢になるほど死亡割合が増大し、被害が深刻化する傾向にある。行政はこうした実態を利用者に周知するとともに、メーカーに対しては安全性の高い製品開発を支援する仕組みが求められる。
経産省所管の製品評価技術基盤機構(NITE)によると、福祉用具の製品事故のうち約37%が使い始めから1年以内に発生している。使用に不慣れだったことが原因の一つと推測される。また「死亡」の比率は80代以上で24%に達した。
NITEは15年に介護ベッドや電動車いすなどの事故事例を公表し、注意喚起した。介護ベッドではヘッドボードやサイドレールなどの隙間に頭や首、手足などを挟み込む事故が最も多く、時には死亡に至る。電動車いすでは乗車中に転倒したり、路肩に転落したりする事故が多数発生したという。高齢化の進展で福祉機器の利用がますます増えることを考えれば、なんらかの対策が急がれる。
ただこの分野では、利用者の自立を促すとともに介護者負担を軽減するベッドや、衝突回避機能を備えた電動車いすなどの技術革新が進み、利便性も高まっている。単純な規制強化がイノベーションを阻害するようではいけない。
経産省は高齢者の事故を防止するため、ビッグデータを活用した安全な製品開発の高度化を検討する。消防や医療機関などの事故情報を解析し、年齢や性別、身体機能に加えて製品の形状や構造、機構、事故発生時間帯などから高齢者の事故を“見える化”するという。
またセンサーや介護施設見守りシステムなどから高齢者の動作情報を収集。これを安全な製品開発につなげる計画だ。
政府は少子高齢化に真正面から挑む「一億総活躍社会」を掲げる。介護離職ゼロの実現のためにも福祉機器の高度化は欠かせない。官民連携して、情報交換を活発にしてもらいたい。
(2016/7/27 05:00)