[ オピニオン ]
(2016/8/10 05:00)
日立製作所は北海道大学、東京大学、京都大学と相次いで共同研究ラボを設置した。政財界が提唱する「ソサエティー5・0」を目指すオープンイノベーションの取り組みという。従来型のモノづくりのための産学連携を越えた“産学協創”の新たな動きとして注目したい。
日立は産業界屈指の規模を誇る「基礎研究センタ」に、研究者約100人を抱えている。ここから計30人を3大学それぞれとの共同ラボに常駐で派遣し、大学の研究者と同じ環境の中で、未来志向的な研究に携わる。
特徴的なのは、いずれのラボでも研究テーマを具体的に絞っていないことだ。逆に明確にしているのは、それぞれの大学の特徴を生かして「ソサエティー5・0」を具体化すること。東大には将来ビジョン構築と政策提言の強みを、北大には地方創生の視点を期待している。
「ソサエティー5・0」は、サイバー空間と現実社会が融合し、新たな価値を創造する超スマート社会をイメージした用語だ。経団連はじめ産業界が提唱し、政府は第5期科学技術基本計画に明記した。
日立の鈴木教洋執行役常務CTOは、同社の新たな取り組みについて「生活の質(QOL)を高める超スマート社会に向けて、オープンイノベーションによる“コトづくり”が、より重要になってくる。独自技術にこだわるモノづくりとも違い、協創により新たな価値を生み出す意識が必要だ」と強調する。
並行して同社が、北大の助教を基礎研究センタへ招聘(しょうへい)したのもユニークだ。第5期科技計画では異なるセクター間の研究者の移動を重視している。近年、企業から大学へという人材交流は目立って増えているが、まだ珍しい逆の流れもこれを機に本格化してほしい。
文部科学省科学技術・学術政策局は「新たな技術やビジネスをデザインするため、大きな構想の段階から産学が連携するケースが増えている」という。日立の先進的な取り組みに続き、ほかの企業や大学から協創の新手法が競って示されることを期待する。
(2016/8/10 05:00)