[ オピニオン ]
(2016/10/6 05:00)
4年ごとに行われる米国の大統領選挙(11月8日)まであと1カ月となった。先週26日には第1回のテレビ討論会が行われ、民主党ヒラリー・クリントン候補と共和党ドナルド・トランプ候補が舌戦を繰り広げた。
初の女性大統領を目指すクリントン候補と公職経験のまったくないトランプ候補という異色の組み合わせに、白熱した討論が期待されたが、議論の噛み合わない非難合戦に終始し、終了後は双方とも自分が有利と主張した。CNNはクリントン優勢が62%、トランプ優勢が27%との調査結果を発表した。しかし、ネットメディアの調査ではトランプ優勢だという。個人的には対外交渉などの場数を踏んでいるクリントン候補に余裕が感じられ、分があるように思った。トランプ候補は発言に勢いが無く、“トランプらしさ”に欠ける印象が強かった。
過去のテレビ討論会では「早く終わらないかな」とばかりに、腕時計に目をやった候補や、ため息混じりで対立候補の主張を聞いた候補が視聴者にネガティブな印象を与え、大統領になり損なった。視聴者はテレビ越しに候補者のちょっとした仕草から大統領としての資質があるかどうかを判断し、それが投票行動に直結する。このため9日、19日にセントルイス、ラスベガスで行われる第2回、第3回のテレビ討論会でも両候補は気が抜けない。
それにしても、米大統領選は時間とお金がかかる。今年1月から6月までは全米各州で予備選が行われ、夏の全国大会で党の候補者を選出して、11月の本選挙となる。いくら米国が広大だとはいえ、それだけの時間をかけて大統領を選ぶ理由は何か。“世界の警察官”としての存在感こそ小さくなったものの、経済規模では世界一で、政治的な影響力も絶大な国のリーダーであることを世界にアピールする必要があるためではないか。つまりは大統領を選ぶというより、大統領を作り上げているといった方が適切だ。
第1回テレビ討論会に話を戻そう。両候補の経済政策も正反対だ。トランプ候補が「米国企業が海外に出ていくのを食い止めなければならない。法人税率を35%から15%まで引き下げる」と大企業や富裕層重視を打ち出したのに対し、クリントン候補は「中間層の復活に尽くす必要がある」とし、大企業や富裕層への増税と中小企業重視の姿勢を示した。ただ、環太平洋連携協定(TPP)については交渉時点まで賛成していたクリントン候補が反対に回ったため、どちらが大統領になっても承認せず、成立には至らないもよう。
市場では対日強硬派のトランプ候補が大統領になったら、急激な円高・株安になる“トランプ・ショック”がささやかれ始めている。今後もクリントン候補の優勢が予想されるが、選挙は何が起こるかわからない。11月8日の大統領選に向けて、日本でも注目度は高まるばかりだ。
(論説委員・川崎一)
(2016/10/6 05:00)