[ オピニオン ]
(2016/10/27 05:00)
米国の大統領選が最終盤を迎えている。民主党のヒラリー・クリントン陣営は、優勢を決定づけたかに見えた19日のネバダ州ラスベガスでのTV討論会の前後、フロリダ、オハイオ、ネバダ、ノースカロライナなどまだ旗色が鮮明になっていない州に、オバマ大統領、ミシェル夫人、アル・ゴア元副大統領、ジョー・バイデン副大統領、民主党の大統領候補選で接戦を演じたバーニー・サンダース上院議員らが入り、クリントン候補支持を訴えるとともに、期日前投票を呼びかけた。
もちろん、クリントン候補と夫のビル・クリントン元大統領、娘のチェルシーさんも各地を巡っているが、オバマ大統領とミシェル夫人の人気はクリントン候補の人気を凌ぐ。クリントン氏の心中はいかばかりかとも思うが、そうした党内の心強い援軍は反トランプのなせる業でもある。すでに期日前投票を終えた有権者はオバマ大統領をはじめ400万人を超えたとされ、米メディアの間では「民主党に有利か」と報じられている。
だが、クリントン陣営が優勢とはいえ、何が起こるかわからないのが政治の世界。異例づくめだった2000年の大統領選のようなことが起きないとも限らない。2000年の選挙は、共和党のジョージ・W・ブッシュ・テキサス州知事と民主党のゴア副大統領の戦いであったが、大統領選の勝者となる選挙人270人以上獲得をめぐっての混乱が、フロリダ州での投票日以降、1カ月以上も続いた。
フロリダ州の州務長官は、ブッシュ候補の勝利を認めたものの、ゴア候補はこれに対し提訴するなど事態は泥沼化。最終的に、選挙人が代表する州の投票結果を反映した投票を行う「選挙人集会」が設定された12月12日までに憲法に合致する得票の数え直しは不可能と連邦最高裁判所が判断、選挙を終結させた。
その時の一般投票の結果は、選挙人271人を獲得して勝利したブッシュ候補が5045万6062票、選挙人266人獲得のゴア候補が5099万6582票であった。一般投票で負けながら、獲得した選挙人の数で勝利した候補が大統領になったのは、ベンジャミン・ハリソン以来、112年ぶりのことだ。
一方、トランプ候補は、11月8日に行われる選挙結果を素直に受け入れ、政権の平和的移行に協力するかどうかに関して明言を避けている。クリントン候補は選挙人登録ができない不法移民を登録させるなど、不正選挙を行っているというのがその理由だ。トランプ候補は劣勢とはいえ、一度落ちた支持率がこのところは上昇気味だ。
今回の大統領選では、富の富裕層への集中という所得分配の格差拡大、学生ローンの返済不能者の急増に示されるような世代間格差の拡大、オバマ政権による「世界の警察官から降板」といった風潮が底流にある。クリントン候補はこうした声の代弁者とは思えない。ピュー・リサーチ・センターが今年8月初旬から中旬に行った世論調査によると、「50年前に比べ、現在の市民の生活は悪化したか」の問いに対し、回答したトランプ支持者の81%は同意し、クリントン支持者では19%が同意しただけだった。政治そのものや連邦政府に対する不信も根深い。
2000年の選挙の投票率は51.21%。今年は両候補の低俗な非難合戦にウンザリしている市民が多い。一般投票で負けた候補が大統領に選ばれたブッシュ対ゴアの先例にならい、一般投票の結果にも注目する必要がありそうだ。
(客員論説委員・中村悦二)
(2016/10/27 05:00)