[ オピニオン ]
(2016/10/20 05:00)
論説の仕事とはやや異なるが、十数年来、金融関連業種を除く上場の主要企業を対象に、真の実力を評価する弊社独自のプロジェクトに関わっている。決算発表や時価総額に現れない企業力が存在することは確かだが、それを計測し、可視化することの難しさを痛感している。
評価をするためには、公表資料以外に詳細なアンケートに回答してもらう必要がある。残念なのは「不祥事を起こしたので」「業績が悪かったので」といった理由で、参加を断る企業が一部にあることだ。
誰しも自分をよく見られたい。ヒトも企業も同じだとは思う。赤字転落や経営陣の引責がマイナスに働くのは事実だ。しかし企業力とは、果たして株価が乱高下するほど短期間で大きく変わるものだろうか。
企業力評価プロジェクトの検討を始めた当時、日本の経済界では新自由主義的な考え方が最も強かった。リストラを発表して社員を減らせば株価が上がるような風潮すらあった。確かに資本効率に限れば一理ある。しかし、それがすべてではない。
大手製造業が地方に立地する工場は、どこもその地域の経済の中核を担う。仮に企業としては業績不振であっても、従業員の雇用と給与を通じて地域の安定と自治体の税収の基盤となる。もし工場を閉鎖すれば住民生活が破壊される。
産業社会の中では、これも立派な企業力としてポイント加算する必要がある。株式の投資家からみた魅力だけで判断してはならない。そう考えて評価方法を立案し、プロジェクトを続けてきた。
何年も作業をしていると、不祥事や業績悪化を理由に評価を断る企業は、ごく一部であることも分かってきた。多くの企業は上位にランクインしないことが明らかであるにもかかわらず、手間のかかるアンケートにきちんと回答してくれる。
そして前年より下がった評価を受ける企業に対しては、人間でいう”胆力”のようなものを感じて頭が下がる。いつか業績を立て直し、ランキングの上位に復帰してもらいたいという温かい気持ちにさせられる。
苦しい時でも評価から逃げない”胆力”も、企業力の一端であるのかも知れない。
(論説副委員長・加藤正史)
(2016/10/20 05:00)