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[ 科学技術・大学 ]
(2016/11/1 05:00)
原理的に盗聴が不可能とされる次世代の量子暗号技術。東芝は2020年までに、国内初となる量子暗号通信の実用化を目指す。初の海外拠点として開設した英国の「東芝欧州研究所ケンブリッジ研究所」では、03年に量子暗号通信技術の研究を始めた。最近は英政府のプロジェクトにも参画し、実用システムの開発を進める。
東芝は同分野で業界をリードする成果を挙げてきた。10年、50キロメートルの光ファイバーを使って世界最高速となる毎秒1メガビット(メガは100万)で暗号鍵を送る実験に成功。この性能は今なお破られていない。14年には首都圏の既設の45キロメートル光ファイバー上で暗号鍵を送り、1カ月間以上安定的に稼働できることを確認した。現在は東北大学と実際の全遺伝情報(ゲノム)解析データを暗号化して送る実験を行っている。
ケンブリッジ研は、英ケンブリッジ大学にほど近い場所にあり、研究所長も同大から招くなど密接な関係にある。設立25周年を迎えた7月の研究所セレモニーも同大で実施した。浅井博紀副所長は、「物理的な距離がそのまま心理的な距離感につながっており、大学と共同研究をする上で組織の壁はほとんど感じない」と話す。世界の知が集まる大学と日常的に交流できる環境は、研究者にとって最大のアドバンテージだ。
研究所には世界各国の研究者が在籍し、コンピュータービジョンや音声認識の研究も行う。半導体技術をベースに基礎研究から手がけてきた量子暗号通信技術は順次、日本の本社に移管しており、実用化が目前だ。「研究所発の技術の事業化の成功例になる」と浅井副所長は期待する。
量子暗号通信は海外で一部実用化されているものの、本格普及には至っていない。研究所は10月に英BTグループと顧客向けのデモ展示施設を開設し、需要の開拓も急ぐ。BTとは英国で、17年にも量子暗号の通信回線を一部完成させる計画だ。英国の独特なアカデミックな研究所で生まれた量子暗号技術が今、まさに花開こうとしている。
(藤木信穂)
(火曜日に掲載)
▽所在地=UK・ケンブリッジ・ミルトンロード・208ケンブリッジサイエンスパーク▽電話=+44・1223・436900▽主要研究テーマ=量子暗号鍵配信、量子デバイス、音声認識、コンピュータービジョン▽研究者数=非公表
(2016/11/1 05:00)
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