[ 機械 ]
(2016/11/4 05:00)
インダストリー4.0を実現するスマートファクトリーへの関心が高まっている。すべてがインターネットとつながることで、最適な生産を実現するスマートファクトリーはドイツで誕生し、グローバルに広がろうとしている。日本でも製造の現場を変革するスマートファクトリーへさまざまな取り組みがチャレンジされはじめている。
スマートファクトリーの誕生
スマートファクトリーの誕生はドイツからだった。製造業の人件費の高さに悩むドイツが、人件費の圧縮ではなく、それに見合った生産力、生産効率を実現し、国際的な競争力を飛躍的に発展させるために立案した技術戦略がインダストリー4.0であり、それを実現できる新しい工場の姿がスマートファクトリーだ。
スマートファクトリーに必須なのは、インダストリー4.0の構想に沿ってすべてがネットワークに接続していることだ。例として有名なのが、2014年のハノーバーメッセでシーメンスとフォルクスワーゲンが展示したプロトタイプだろう。自動車のシャーシ(車台)に取り付けたセンサーから生産ラインのロボットに指示情報が送られ、ロボットがそれに従ってドアの取り付けなどを行うというものだった。
従来の工場でも、個別のラインなどでファクトリーオートメーションは推進され、ロボットも導入されてきたが、それは部分的なものであり、情報も制御も分断されていた。
一方で、センサーなどから得られる情報を統合し、最適な生産調整や柔軟な仕様変更にも対応し得る工場の全体環境が構築されることで、スマートファクトリーが成立する。しかし、実現に向けてはその構成要素である工場のエネルギー管理、IoT(モノのインターネット)、製造システム、防災安全、建物内物流、メンテナンスなど、多様な検討が必要になる。
また、インダストリー4.0は工場内だけで閉じたものではない。統合すべき情報管理は部材の調達から消費の追跡まで、製品のすべてのサプライチェーンに及ぶ。しかし、一度にそれらを実践することは難しい。まずは情報管理の核となる工場、スマートファクトリーの実現を優先する必要がある。
同時期、アメリカではGE(ゼネラル・エレクトリック)などでインダストリアル・インターネットへの取り組みがはじまり、製造業におけるインターネットへの接続と情報の統合が提起された。スマートファクトリーという概念は米独双方で共通している。
日本のスマートファクトリーへの取り組み
日本国内でインダストリー4.0が広く認識されはじめたのは2015年からだ。スマートファクトリーへの理解もそれ以降だ。それ以前はスマートという言葉は、スマートグリッドなどエネルギー系のイメージが強く、スマートファクトリーという言葉もそちらの意味で使用されていた。そのためFEMS(FactoryEnergy Management System)として、工場で使用する電気を中心としたエネルギーの見える化(監視)と最適化に重点を置く工場をイメージしていた。
インダストリー4.0の理解が深まるとともに、その構成要素としてのスマートファクトリーへの認識も進んだ。当初、国内ではインダストリー4.0に与するべきか、インダストリアル・インターネット陣営に参加するべきかという議論もあったが、政府の「ロボット新戦略」などの取り組みもあり、協調しながらも独自路線を進むという状況が見えてきた。
標準化、ソリューション化による実現のスピードアップ
スマートファクトリーへの個別の企業の取り組みとして、たとえばデンソーは2016年4月に生産現場でのIoTの本格導入を発表し、国内外130工場を2018年までにネット接続し、2020年に本格運用を開始するとしている。これにより、製造ラインを止めず、不良品を削減するために全体の情報を収集し、災害時の早期復旧も可能になるだろう。
もちろん、デンソーのように自力でスマートファクトリー化のすべてに取り組める企業ばかりではない。そのため標準化やソリューション化により、迅速なスマートファクトリーの実現を進めていく必要がある。
2016年4月に経済産業省は、ドイツ経済エネルギー省との間で、IoT/インダストリー4.0協力に係る共同声明への署名を行い、IoT/インダストリー4.0に関するさまざまな課題の解決に向けての日独両国間の連携を発表している。また、ロボット革命イニシアティブ協議会とプラットフォームインダストリー4.0間で連携強化に係る文書が締結されるなど、この分野での国際標準化が進展しそうだ。
設備間の連携を強めるサイバーフィジカルシステム
スマートファクトリーでは「サイバーフィジカルシステム」という言葉が使われる。仮想現実(サイバー)のシミュレーションで最適化を行い、それを現実(フィジカル)の世界に適用。そして現実の世界でデータを計測・分析し、仮想現実のシミュレーションを高精度化していくという考え方だ。
手法そのものが重要なわけではないが、工場内のさまざまな状況を認識して次に行うこと、予測される事態への対応を自律的に行うには、工場の設備間はもちろんサプライチェーン全体の連携が必要になるだろう。
食品産業にとってのスマートファクトリー
現状、スマートファクトリーへの取り組みは業種によって達成度に差がある。リードしているのはロボット導入も早かった自動車産業だ。
多品種の製造を細かいライン変更で行っていく必要のある3品業界(食品・化粧品・医薬品)などは、協働ロボットの登場により今後、本格的なロボット化が進んでいくと期待されている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2035年に向けたロボット産業として、「食品加工」「食品ハンドリング」それぞれの市場規模を1500億円超と予測している。
食品加工業は現代人の食生活になくてはならない産業だが、そこで作られる製品は多種多様であり、扱う食品によって設置される機械の種類も異なる。また、食品製造では管理面が極めて重要になる。生産量の管理だけではなく、原材料や衛生面についても複雑で厳密な管理体制が敷かれている。また、製造におけるロスの削減や工場稼働率の向上も強く求められる。スマートファクトリーでは最終的に、受注-調達-生産-物流-販売のデータをリンクさせ、生産活動全体のデータを蓄積、分析し、賢く予測することが目標となる。
多品種の製造を行う食品産業は、全体の最適化という面でさまざまな取り組みが行える分野といえるだろう。
(The ROBOT イノベーション×ビジネス 2016年7月号掲載)
(2016/11/4 05:00)