[ オピニオン ]
(2016/12/1 05:00)
熱燗(あつかん)が恋しい季節になった。都内で開かれた展示会に、IH(電磁誘導加熱)調理器で使える酒器の銚子が出品された。栃木県佐野市で1000年来の技法を継承する天明鋳物師(てんみょういもじ)のひとり、栗崎二夫(つぎお)さんの作品だ。
燗を直接つけられるだけでなく急須のように取っ手があるから、ゆったり酒を楽しむ場面に合いそう。現代では銚子と徳利(とくり)は同一視されがちだが、江戸時代には別物だった。銚子は柄の有無や片口・両口などの区別があったという。
天明鋳物は栃木県の伝統工芸。福岡県に伝わる芦屋釜と対極をなす力強い造形の茶釜が知られる。最盛期には数百人もの職人が活躍したが、現在は10人足らず。需要喚起に取り組む栗崎さんは「かつての暮らしの道具を現代流にアレンジしたまで」と控えめだ。
地元・佐野市は鋳物を生かしたまちづくりに取り組む。東京で働く30代の女性を「天明鋳物地域おこし協力隊員」として任命し、年明けから商品開発やネットを使った情報発信を託す。
鋳物はBツーBの色彩が濃いが、埼玉県川口市や名古屋市中川区などの企業は調理鍋のような生活に身近な商品も開発している。天明鋳物の課題は価格と知名度。生活様式を彩る新たなモノづくりが成功するかどうか。
(2016/12/1 05:00)