[ 機械 ]
(2016/12/20 10:30)
注目集まる加工液
研削加工では高能率加工、高品位加工、難削材加工、低コスト加工が求められており、その対応として研削機械や砥石(といし)のほかに加工液(クーラント)にも注目が集まっている。筆者らは地球環境に配慮しつつ、高能率で高品位な除去加工を実現できる環境対応型クーラントの研究に取り組んでいる。ここでは日本工業大学の鈴木清名誉教授、二ノ宮進一教授と共同で開発してきたマイクロバブルクーラント法や、強アルカリイオン水を加工液に適用する技術について紹介する。
◇富山県立大学 工学部 知能デザイン工学科 准教授 岩井 学
マイクロバブルクーラント法-工具寿命延ばす 表面粗さ25%向上
マイクロバブルクーラント法は直径20マイクロ―50マイクロメートルの微細な気泡であるマイクロバブルを加工液に混入し、各種の除去加工に適用する方法である。マイクロバブルクーラントは、クーラントタンク内で発生させたマイクロバブルを機械に標準装備されている給水ポンプで循環させるか、供給ノズルの直前で発生させるだけでよいため、既存の工作機械を改良するなどの特別な方策を必要としない。したがって既存の生産環境へ容易に適用することができる。
これまでにマイクロバブルクーラント法によって、旋削加工、穴あけ加工および研削加工に対して工具寿命を向上させられることなどの効果が得られている。
写真1はビトリファイドcBNホイール(CB170V)によるダイス鋼の平面研削に適用した事例である。ソリューション2%希釈液にマイクロバブルの混入による効果を調べた結果、マイクロバブルクーラントは、砥石摩耗量が23%少なくなり、表面粗さは25%向上した。
加工液 経済的に“延命”
またマイクロバブルクーラントには、二次作用として、加工液の浄化作用がある。あらかじめ細菌を発生させた水溶性加工液中でマイクロバブルクーラントを循環させた場合、加工液中の細菌が消滅し、長期間細菌の繁殖はなかった。さらにマイクロバブルは加工液中の微細な切りくずや遊離砥粒(とりゅう)および摺動(しゅうどう)油を吸着して液面に浮上させ、分離できるため、加工液を容易に浄化できる(写真2)。
マイクロバブルを利用した浄化法は、懸濁物質の種類(切りくず、砥粒、摺動油、ホコリ、細菌および排せつ物、死骸など)やサイズを選ばず、さらにフィルターなどの特別な装置を使用しないため、加工液中の懸濁物質が及ぼす加工面性状への悪影響の抑制だけでなく、経済的に加工液を長く使える技術である。
近年、国内メーカー数社から除去加工用のマイクロバブル発生装置が市販されるようになり、工作機械に標準装備されているタイプもある。加工能率を大幅に向上できるという効果を示しているが、効果発現機構の解明には至っていない。今後は所望の直径を持つマイクロ・ナノバブルを高密度に製造する装置を開発するとともに、バブル径やバブル密度と加工性能や浄化作用との関係を明らかにする予定である。
強アルカリイオン水利用加工液-有機溶剤の代替に適用
ここで取り上げるのは水素イオン濃度(pH)が12程度の強アルカリイオン水である。図の方式により製造される強アルカリイオン水には0・1%程度の炭酸カリウムが含まれているだけであるため、環境に負荷を与える有機溶剤の代替として適用が急激に進んでいる。これまでにも世界中の切削・研削油メーカーが環境に優しく、高性能な加工液を開発しているが、依然として加工液の腐敗とそれに伴う工場環境悪化、加工液廃棄などに関わる諸問題が存在している。
例えば、一般的な水溶性加工液原液の価格は1リットル当たり300―500円と言われているが、腐敗に伴う加工液交換と廃液処理コストは1リットル当たり20円以上になると言われており、これが機械加工単価を押し上げる要因ともなっている。
また腐敗臭の問題は工場で働く作業員の定着率にも影響を及ぼすと言われている。強アルカリイオン水はpHが12程度と高いため、鉄系金属材料の発錆を阻止できることに加え、加工液中のバクテリアの増殖による液腐敗を抑制することもできる。したがって強アルカリイオン水を加工液(必要に応じて若干の添加剤付与)とした場合は、適切にpH管理をすることで1年以上にわたり液交換をすることなしに使用できているとの実績がある。
この強アルカリイオン水を除去加工用の加工液として使用する試みを山田マシンツール(東京都台東区)と共同で行っている。
これまでに強アルカリイオン水利用加工液を旋削加工、穴開け加工、タップ加工に適用した時、加工中の抵抗が低減して工具寿命が向上することが分かった。特にステンレス鋼の穴開けでは、ドリル寿命が10倍に延びたとの報告もある。
市水のみ、強アルカリイオン水のみを供給しながら、電着cBNホイール(CB270P)によるSUJ2焼入鋼の平面研削を行った結果、市水を供給した時に比べて強アルカリイオン水を供給した時に砥石摩耗量が15―35%減少し、表面粗さは約15%改善した。
強アルカリイオン水の効果として、摩擦が軽減し、切れ刃の摩耗が抑制されたことに起因していると思われるが、理論的解明は今後の研究を待たなければならない。しかしながら、環境に負荷を与えない加工液としての特性に期待したい。
【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】
(2016/12/20 10:30)